美月の限界を肌に感じ、それでも繋いだ手から伝わる決意を希望にして、私達は走り抜ける。

「はっ、はっ……はぁっ」

 普段、そう遠くないと思っていた距離が、ずっと長く感じられた。

 何度か追いつかれそうになりながらようやく体育館に辿り着き、すぐさまグラウンドから通じる扉を勢いよく開け放つ。

「みづきっ!!」

 後ろにいた美月が体育館の中へ飛び込み、私も転がり込んで──重い扉をありったけの力で引っ張った。

「あっとふーたり!!」

 鬼の悲鳴が、駆け抜けるその姿が目前にあった。扉の隙間から見える鬼の狂気に染め上がった顔が、私の眼前へと差し迫る。

 閉じて、閉じて閉じて閉じて……っ!!

「きゃはっ……がっ!!」

 がしゃん、と扉が派手な音を立てて閉じられた。同時に、ぶつかって苦痛に喘ぐような鈍重な悲鳴が、扉越しに反響する。

「はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」

 慌てて扉の下にある内鍵を締め、私はその場に倒れ込んだ。
 息が上がりすぎて……もう動けない。肺と足に激痛が走って、全身が鉛よりも重く感じる。

 あぶ、なかった……もう少しで、追いつかれてた……っ。

 けたたましく叩かれる扉。扉一枚を隔てて、すぐそこに鬼がいる……でも、もう逃げる気力なんて残っていなくて、心底どうでもよかった

 ──三人とも、助からなかった。助けられなかったんだ。

 汗ばんだ額を拭い、私は体育館の壁際に背中を預け、酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す。

『……石川智也、小川飛翔、失格。稙田棗、お題違反を確認。失格』

 体育館のスピーカーには放送が流れないらしく、グラウンドへ向けた校外放送が、反響しながらこちらまで届く。

 ……棗はお題違反だったんだ。鬼が急に現れたから何となく予想していたけど。
 でも──まさか、智也を囮にする、なんて思わなかった。
 
 二人とも羨ましいくらい仲が良くて。部活もずっと一緒に頑張ってるって知ってた。

 なのに、棗はゲームに参加している間……智也のことを恨みながら一緒にいたの?
 そうだとしたら……どうしようもなく、辛いことだ。

「ちがう……違うの…​…」

 広々とした体育館の中に、触れたら壊れてしまいそうな悲痛な呟きが、静かに木霊する。