「うわぁっ」

 バランスを崩し、智也は大袈裟なまでに転倒する。棗はそんな智也を足蹴にして走り抜ける。

 突然の出来事に頭が真っ白になる。思考が一瞬で停止した。

「──智也っ!」

 喉を着いて出た名前を呼ぶ前に、棗に蹴られたらしい脇腹を押さえ、痛みに呻く智也に影が差した。

「つっかまーえたっ!」

 転んだ先にいたのは、さっきまで棗を追いかけていた鬼で──魂が抜けたように微動だにしない智也に、嬉々として飛び付いた。

 一瞬で、鬼諸共、智也が消えた。

「お前が俺らを誘ったから、んなことになったんだよ! 責任取れよな!」

 自暴自棄になったような捨て台詞。棗の声だった。
 自分が捕まりそうだからって──智也を囮にしたの? そんなの……そんなのってないよ!

「きゃは! きゃはは!!」

「結月……っ」

 鬼の悲鳴と美月の切羽詰まったような声で、はっと我に返る。
 智也の失格を考える隙なんて無い……今は兎に角逃げないと……っ。

 緩んでいたスピードを取り戻すように、私は再び地を蹴り上げる。
 残ってる鬼は二人だ。後ろから放たれる、ゲームを楽しむような声が私達に迫り来る。

「おいっ、なつ、め……お前っ!」

「ははっ……俺は悪くねぇよ! 智也が俺らを誘ったのが元凶だろうが!」

 飛翔が叱責するように睨め付けても、棗は悪びれる様子もなく笑い飛ばす。
 刹那──女の子が一人、空中から棗の前に現れ、軽やかな足取りで着地した。

「は……」

「お題いはん、みーつけたっ!」

 引き裂くんじゃないかと思うほど、凄まじい勢いで釣り上げられた鬼の口角。

 棗が怯み、その場に尻もちをつくのと、鬼が彼目掛けて飛びかかったのは同時だった。
 目の前にいたはずの棗の後ろ姿が瞬く間に消え失せる。

 私はぐっと下唇を噛み締め、美月と繋いだ手を一層力強く握った。
 二人とも、校内でも有名な幼馴染コンビだって、言われてたのに……どうしてこうなっちゃったの……っ。

 嫌だ。捕まりたくない。皆と一緒に生き残りたかったのに。
 もう……こんな思いだってしたくないよ!

 執拗に追いかけてくる背後の鬼──このままじゃ、体力が尽きてゲームオーバーだ。やっぱり、どこか逃げ込める場所に……!

「……ごめ、ん……ゆづき、手をっ、はなして……」

「やだっ……」

 美月から握られる力がどんどん失われていく。私はそれを拒絶するように、ぐっと美月を力いっぱい引っ張り上げる。

 でも、私も……もう、限界……っ。