鬼は──飛翔達の少し後ろを、狂気を放ちながら全力で追走している。
 早い……きっと同じように窓から飛び降りたんだ……!

 三人を捕まえようと手を伸ばす姿。ぞくりと体が冷え、私は歯を食いしばって前を向いた。

「きゃははっ!」

「おにごっこ〜? くすくすっ!」

 追い打ちをかけるように響き渡る愉快な快哉。私は美月を離すまいと力を込め、グラウンドを全力で駆ける。

「くそっ……捕まってたまるか……!」

 流石は陸上部、と言うべきなのか──私の横を智也が追い抜かした。
 その後ろを追うように、飛翔、棗が息も絶え絶えながらも走っている。

 良かった……三人とも無事!

「はっ……はあっ」

 徐々に私も息が上がり始める。逃げ始めてどれくらい経ったのか分からない。
 ただ、後ろから聞こえる甲高い悲鳴と足音から逃げ切りたくて、必死に走り続けた。

「ゆ、ゆづき……もぅ、むりぃ……」

「美月……っ頑張って!」

 美月の走るスピードがくんと落ち、私の腕にのしかかる重みが増す。

 限界なんだ……どこか、どこかに隠れるしかないの!?
 でも一体どこに? 考えろ……そうじゃなきゃ捕まっちゃう!

 訴え始めた腕の痛みを我慢して、美月を力いっぱい引っ張り上げる。蓄積した疲労がずしりと私を襲う。
 嫌だ……美月は絶対、捕まえさせない……その為ならこの体だって惜しくない!

 踏み込む足一歩一歩が鉛のように重い。ずっと走りっぱなしのせいで肺が押しつぶされそう……っ!

「──つっかまーえた!」

 無邪気な声とともに、私の左横──ちょうど私と美月を追い抜かそうとした棗に向かって伸ばされる青白い腕が、視界を掠めた。

 嘘……っ、もう追いつかれたの!?

「うわぁぁぁっ!!」

 棗の絶叫が耳朶を震わせる。狂乱に満ちた顔で疾走する後ろを、逃さないようぴったりと張り付いて走る鬼が、私達を横切った。

 抜かされた……!? 他の鬼とはまだ距離があるのに!

「きゃははっ! まって、まってぇ!」

 一人の鬼は、一刻も早く捕まえんと、笑い声を響かせながら棗を追走する。その手が、あと少しで棗の背中に触れる──その、ほんの直前だった。

「く、そ……がっ!!」

 棗が一心不乱に手を前に突き出す。その先にいた、喘鳴と共に疾走する智也の服の裾を掴み、乱雑に引っ張り込んだ。