「くすくす……っ」

 どくん、どくんと心臓が脈打つ。手のひらにじわりと汗が滲み、胸の奥が嫌悪感を纏った熱を生み出す。

 嫌だ……嫌だ嫌だ……!

「くすくす……きゃはっ!!」

 ばこんっ、と扉が蹴破られる轟音と共に、粉塵が巻き上がる。
 頬を撫でた冷たい風が、私達に危険信号を発する。

 扉の向こう側にいたのは──三人の鬼だった。

 ずさっと後ずさり、私は鬼から目を離さないようにしながら、手探りで窓の鍵を確認する。
 鍵は……開いてる。これならここから外に出られる!

 一向にこちらに飛びかかる気配のない鬼を横目に、私達はお互い目配せする。
 大丈夫。逃げ切れる。この窓から……でも、全員が順番に出る暇は無い。どうすれば……。

「もーいいかぁい」

 必死に正解を探っていた最中、鬼の一人が手で目を押さえながら、幼い声で陽気に唱えた。
 ──誰もが知ってる、かくれんぼの決まり文句。

「……もーいいかぁい」

 一人の鬼が始めたのを皮切りに、周りの鬼も目を押さえつけ、口々に叫び出す。
 これって……もしかして、時間をくれてるの?

 "助けて"という文字が脳裏を過ぎる。この子達は……私達に猶予を与えようとしているの?
 そこまで考えて、とても耐えられないほど残酷な現実がそれを否定した。

 ……でも、この好機は絶対に無駄にしない。

「まぁだだよ」

 彼らがかくれんぼの"鬼"なら、逃げる側の私達が答えるべきはこうだ。
 鬼は気味の悪い笑声を挟みながら、きゃっきゃっと浮き足立ったようにはしゃいでいる。

 それはまるで、見た目相応の子どもみたいな反応だった。

「みづき……」

「分かってる」

 小声で名前を呼ぶと、美月はじりじりと壁際へ後ずさり、後ろ手で窓を開ける。

 窓を開ける音に反応する気配は無い。それならと、私も視線を鬼から離さないまま、すぐ背後の窓を開ける。

「もーいいかぁい」

「まぁだだよ」

「くすくす……きゃははっ!」

 歓喜を叫ぶ声が、金切り声のように鼓膜を震わせる。押し寄せる恐怖に蓋をして、私は傍にいる飛翔の服をそっと掴む。

「……お願い。美月を先に出して」