「……まあ、最初、我先にって裏切った奴はいたけどな」

 ぼそりと独りごちた棗。まるで空気を読まない冷酷な台詞に、私はきっと棗を睨む。
 なんでそんな事言うの……それはそうだけど……でも、違うじゃん。

「それも『カミサマ』の策略でしょう。パニックを起こしたら何をしでかすか分からないものよ」

「……ふーん」

「誰しも黒い感情の一つや二つあるわ。ゲームによって表面化されただけ……そうでしょう?」

「はいはい」

 美月が厳しい口調で諌めても、棗は悪いとすら思っていないのか、飄々と返して胡座をかく。

 そっぽを向くように廊下の方を眺める様に、私は首を傾げる。

 なんだか棗の雰囲気が違う。面白おかしくからかったり、ちょっかいかけたり……とか、お調子者な一面もあるけど、悪意はないって分かってた。

 でも、今の棗からは、恨みがましいような棘が明らかに感じられた。
 気まずい空気がどうしても居た堪れず、気を紛らわすように思い浮かんだ疑問を口にする。

「ねぇ、智也」

「……なんだ?」

「『ゲームは一応成立する』って言ってたけど、それってどういうことなの?」

 ずっと不可解だった。このゲームが成立すると言われてるってことは……以前にもゲームが行われたかもしれないってこと。
 なら……その人達は一体どうなったの?

「……このゲーム見つけたの、オカルト系を集めた掲示板でさ。そこに書き込まれてたんだ。『カミサマ鬼ごっこは実在するゲームで、実際に遊んだ人がいるのは間違いない』って」

 ってことは、その書き込んだ人自身は参加者じゃないの? ただ参加した人を知ってるだけ?

 言い回しが曖昧で、自分は関係ない、って言いたいようにも、同じようにやってみろ、と唆しているようにも聞こえて──

『ザザ……ザ……佐倉檸檬、失格』

 突然、スピーカーが起動した。予期せぬ放送に一斉に視線がスピーカーに集まる
 檸檬が……失格。檸檬は最初に楓に裏切られて、最後に姿を見たのはA組の教室だ。

 どこかで鬼に捕まったんだ。お題違反とは言われてないから……追いかけられて、それで──

「くす……くすくす……」

「きゃははっ」

 耳朶を劈く不快な笑い声が、突如廊下に木霊した。