「……やっぱり」

 美月はもぞもぞと体を動かしたかと思うと、すぽんと頭を抜いてこちらに戻ってきた。
 その表情は、恐怖でも焦りでもなく、どこか安堵したように緩んでいて。

「へ……?」

「幽霊じゃないわよ。ほんと、思考回路が可愛いわね」

「失礼な!」

 馬鹿みたいにぶるぶると震える私の頬を、美月は優しくつまんで引っ張る。からかって遊んでる……もうっ。

 でも……幽霊じゃないなら、あの光は何? 美月の言い草からして鬼じゃない……なら、もしかして!

「久しぶり……だな、羽田姉妹。飛翔も」

「お邪魔しまーす」

 美月の体に隠れた扉から現れたのは、石川智也と稙田棗だった。

「二人とも!」

 久しぶりに会えて嬉しさが込み上げる。無事なのは知ってたけど、直接会えると安心感が違う。

「なんか俺、ついでみたいに言われてないか……?」

「気のせい気のせい。まあ……なんだ、無事で良かった」

 そう言って笑う智也の顔はなんだかぎこち無い。教室の扉を閉めて、他に持っていたスマホのライトを消す。
 そっか、私が人魂だって勘違いしたのは、スマホのライトだったんだ……。

「そうそう。羽田のお陰で助かったわ」

「え、何が?」

「飴だよ飴。ゲームが始まる前に貰ったやつ。鬼に追いかけられた時、飴投げて気を逸らせてさ。マジ助かった」

 智也とは違い、吹っ切れた様子の棗は絶え間なく笑顔を燃やす。ちょっと調子が狂うなぁ……。

「それは……良かった。二人とも今までどこにいたの?」

「調理室に身を潜めてたんだ。武器があるし……まあ、校舎の外から見つかって逃げる羽目になったけど」

「あー……」

 調理室って言えば、放送室がある棟の、一階にある教室だ。確かに調理器具がいっぱいあるし、物でごちゃごちゃしてるし……隠れるには絶好の場所。

 校舎の外にも鬼は徘徊してるんだ……ここに来るまでに出会わなかったのは奇跡かもしれない。

「しかも逃げた先にも鬼がいてさ。ここに来るまでに撒いてきた」

「……よく逃げきれたわね」

「二人とも陸上部だからな」

 美月はちょっと引き気味らしく、顔が引き攣っている。

 智也と棗は幼稚園から一緒──幼馴染だ。一緒に居るんだろうなと思ってたけど……逃げ切ってるあたり、流石陸上部きってのエースコンビと言われるまである。

「……小野は、失格に、なったんだよな」

 たどたどしく智也が口にする。責任感を纏った言葉は、智也自身を押し潰してしまいそうなほど重苦しかった。