少しずつ、感情が麻痺してきたみたいだった。

 愛音の死を目の当たりにしても、恐怖も、困惑も、後悔も……そんな感情が生温いと思えるほど、私の心は平静としていた。

 校門から校舎へ戻る最中、放送室がある棟にはいたくなくて、隣の棟にある教室に身を潜めた。

 三人の間に沈黙が流れる。心做しか腰を下ろした場所も遠くて、寂しさが私を包み込む。

 スマホを取り出して画面を見ると、『23:03』と表示されていた。
 ゲームを始めて2時間しか経ってないんだ……時間感覚まで無くなりそう。

 ふと視界に入った、スマホの電波状態を示す『圏外』の二文字。今更落胆はしなくとも、どすんと絶望感だけは深まった気がした。

 私は床に体育座りになって、膝に顔を埋める。

 『カミサマ』って一体何者なの? 幽霊とか怨念とか、そういうオカルトチックなもの?
 でも、鬼は泣きながら愛音を殺めて……"助けて"なんて私達が言いたい言葉なのに。

 矛盾しすぎて意味がわからない……。

「……二人とも、少し休め」

 不意に飛翔が告げる。顔を上げると、飛翔はやるせなさげに、椅子に座る美月と私を交互に見た。

「疲れただろ。鬼は俺が見張ってるから」

「それだと飛翔が休めないよ」

「いいんだよ。俺は男だし、体力には自信がある」

「なら私だって」

「……限界だろ。俺のことはいいから」

 優しく諭され、何も反論できない。疲弊した様子の美月は「お言葉に甘えるわ」と呟き、椅子の背もたれに体を預け、瞼を閉じた。

 少し経つと、美月の方から小さな寝息が聞こえてくる。

「……隣、いいか?」

「え、うん……」

 遠慮がちな口調に戸惑いながらも頷くと、飛翔は緊張が解けたように不器用に笑い、私の隣に座り込んだ。
 飛翔が隣にいる。嬉しいはずなのに……今は素直に喜べないや。