「愛音っ」
「愛音……! ここにいるよ!」
愛音に聞こえるように声を張り上げる。けれど、飛翔がこちらに気づいたのに対し、愛音は我を忘れたように飛翔への力を弱めない。
「どこに行ったの!? 二人までいなくなったら……っ!」
髪を振り乱して暴れる姿は、いつものような毅然とした振る舞いとはかけ離れていて。
心が壊れかけているのが、唐突に理解できてしまって。
このままじゃまずい──そう思って駆け出そうとした時には遅かった。
「私を……私を置いて行かないで! こんなゲームもう嫌ぁっ!」
愛音が力いっぱい飛翔を突き飛ばし、足をもつれさせながらその場から走り出す。よろめいた飛翔が手を伸ばそうとして、けれど指先は空虚を掠めた。
愛音が向かっている先は──すぐそこにある学校の正門。
「待って! 愛音!!」
正門はダメだ──けたたましい危険信号が頭を席巻する。
だって、ゲームの舞台である学校から逃亡しようだなんて、『カミサマ』が許すはずが……!
「っ! 愛音待って!」
美月もその先にある悪夢に気づいたのか、慌てて声を荒らげる。けど……その声はもう、愛音には届かない。
愛音の指先が校門に触れ、手をかけて身を乗り出す。
体が半分、校門の外に出た──一瞬、愛音の戦慄に満ちた横顔が、安心感を得たように緩んだ。
『──加賀野愛音、脱走を確認。失格処分を下します』
すぐ後ろにある教室のスピーカーから、無機質な声が突如として放たれる。
刹那、愛音の背後に子どもが──鬼の女の子が一人、音もなく現れた。
「あい、ね……っ!!」
私の喉から掠れたような悲鳴が漏れ出る。
姿を現した鬼の手に握られているのは──ハサミだった。
聖歌や陽介を手にかけたものと全く同じ、小さなハサミ。
校舎の木々が揺れる様が、飛翔や美月が走り出そうとする姿が。
愛音の、鬼の、仕草の一つ一つが、スローモーションのように遅く見える。
お願い……愛音を、連れていかないで!
「逃げちゃ、ダメだよ?」
──私の願いは、なんて可愛いものなんだろう。
「愛音……! ここにいるよ!」
愛音に聞こえるように声を張り上げる。けれど、飛翔がこちらに気づいたのに対し、愛音は我を忘れたように飛翔への力を弱めない。
「どこに行ったの!? 二人までいなくなったら……っ!」
髪を振り乱して暴れる姿は、いつものような毅然とした振る舞いとはかけ離れていて。
心が壊れかけているのが、唐突に理解できてしまって。
このままじゃまずい──そう思って駆け出そうとした時には遅かった。
「私を……私を置いて行かないで! こんなゲームもう嫌ぁっ!」
愛音が力いっぱい飛翔を突き飛ばし、足をもつれさせながらその場から走り出す。よろめいた飛翔が手を伸ばそうとして、けれど指先は空虚を掠めた。
愛音が向かっている先は──すぐそこにある学校の正門。
「待って! 愛音!!」
正門はダメだ──けたたましい危険信号が頭を席巻する。
だって、ゲームの舞台である学校から逃亡しようだなんて、『カミサマ』が許すはずが……!
「っ! 愛音待って!」
美月もその先にある悪夢に気づいたのか、慌てて声を荒らげる。けど……その声はもう、愛音には届かない。
愛音の指先が校門に触れ、手をかけて身を乗り出す。
体が半分、校門の外に出た──一瞬、愛音の戦慄に満ちた横顔が、安心感を得たように緩んだ。
『──加賀野愛音、脱走を確認。失格処分を下します』
すぐ後ろにある教室のスピーカーから、無機質な声が突如として放たれる。
刹那、愛音の背後に子どもが──鬼の女の子が一人、音もなく現れた。
「あい、ね……っ!!」
私の喉から掠れたような悲鳴が漏れ出る。
姿を現した鬼の手に握られているのは──ハサミだった。
聖歌や陽介を手にかけたものと全く同じ、小さなハサミ。
校舎の木々が揺れる様が、飛翔や美月が走り出そうとする姿が。
愛音の、鬼の、仕草の一つ一つが、スローモーションのように遅く見える。
お願い……愛音を、連れていかないで!
「逃げちゃ、ダメだよ?」
──私の願いは、なんて可愛いものなんだろう。



