「はい、どうぞ」

「聖歌様ありがとう……! このご恩は一生忘れません!」

「こら聖歌。甘やかさないの」

 差し出された冊子を受け取ろうとすると、鋭いご指摘が飛んでくる。顔を上げると美月が呆れたような眼差しで私を見ていた。

「でも、結月ちゃん怒られちゃうし……」

「自業自得よ」

「余計な事言わないの。こういうのは助け合いだよ」

「結月は助けられてばかりでしょ……」

 結局聖歌の厚意でワークを見せてもらえたけど、美月の冷たい視線が痛いです。

 聖歌とは去年知り合って、それからずっと三人一緒。聖歌はどことなく小動物感がある可愛い子。おまけに優しい。
 課題を忘れた時はいつも聖歌に泣きついてる。だって美月は貸してくれないもんね。

「そういえば……石川君が面白いゲームを持ってきたって言ってたよ」

 聖歌の机を借りてワークを書き写していると、面白そうな単語が聞こえてきて私は顔を上げる。

「なにそれ?」

「えっと……『カミサマ鬼ごっこ』だったかな? 皆でやりたいらしいの」

「へー」

 なんだか都市伝説にありそうな名前だなぁ、なんて内心呟いた瞬間。

 どさり。

「わっ」

 視界の端で、隣の席に座る子の手から、何かが滑り落ちた。びっくりして飛び退くと、床に半開きになった文庫本が転がっていて。

 確か隣の席は……今年の一月に転校してきた前畑華ちゃんだ。

「大丈夫?」

「……うん。ありがとう」

 本を拾い上げて渡そうとした時、伸ばされた華ちゃんの指先が異様に震えているのが見えた。そればかりか、血色もあまり良くない。

「華ちゃん大丈夫? 顔色悪いよ?」

「本当……保健室行く?」

「……平気」

 そう言って再び読書に耽る華ちゃん。だけどなんだか上の空みたいで、集中できてない感じがする。不安そうな声音だったし……。