……嫌な感じはまだ残ってる。吐き戻したからじゃない……このゲームが、自分自身が、全てが嫌になったから。

「……美月、どうしよう」

「……どうしたの」

「私が……聖歌を置いて行ったから。陽介と二人きりにさせてしまったから……!」

 だんっと打ち付けた拳が、じりじりと痛みを訴える。
 こんな痛み……聖歌が味わったものに比べたら、些末なものだ。

 もう……楽になりたい。そう思っても、理性はそれを許してくれない。

「結月のせいじゃないわ。結月はお題のこと知らなかったんでしょう」

「でも……そうなるように仕向けたのは私で……っ」

「仕向けたのは『カミサマ』よ。恋心を抱く子にあんなお題を宛てがうなんて、悪意しかないのよ」

「……私に任せてって、言ったもの。なのに、裏切ったのは私なんだよ」

「結月……」

 面倒ばかりかける私に、聖歌はいつも微笑みながら手を取り合ってくれていた。困った時は助けてくれて、悩みがあれば根気強く聞いて、相談まで乗ってくれて。

 小さな体で頑張る姿を応援するのが幸せで。
 二人でする恋バナは楽しくて、ドキドキして、そして聖歌はとっても可愛くて。

 ずっと一緒にいたのに……守るどころか、贄として差し出してしまったようなものじゃない!

「結月。お願いがあるわ」

 荒ぶる私を止めるように、美月は芯のある強い声音と共に、決意を宿したような瞳で私を見据えた。
 今までに見た事のない眼差しに、私は一瞬たじろぐ。

「言ったでしょう。誰にも非はないの。結月のせいじゃない」

「けど、見捨てたのは私で──」

「見捨てたのは『カミサマ』よ。結月も聖歌も悪くないの。……お願い、いつもの結月に戻って」

 ──美月の瞳に灯る光が、悲しげに揺れた。