けど、それは一縷の望みですらないのだと、即座に打ち砕かれた。
「お題いはん、はっけーん!」
それまで大人しかった鬼は、無邪気な声で空間を切り裂いた。
聖歌を足蹴に陽介へと飛びかかり、小さな手に握られたハサミを迷いなく胸元に突き立てる。
──ドス、という鈍い音と共に、窓辺に紅い鮮血が散った。
「あ……あぁ……」
「よう、すけ……お前……」
肉を裂く非情な響きが、皮肉なほど綺麗に、私達の記憶へと刷り込まれていく。
「……早く離れましょう」
「……っああ。羽田姉、立てるか?」
「聖歌……陽介……嫌ぁ!!」
そんなの嫌だ。ここで二人とお別れなんて……嫌だ!
どうしてなの。お題違反なら連れ去られるはずなのに……殺す、なんて。
──少しでもいいから触れたくて。その声がもう一度聞きたくて。
美月の制止をすり抜けて伸ばした私の腕は、聖歌に届くことはなかった。
「羽田!」
美月の代わりに、飛翔が私の腕を掴み、力任せに引っ張られる。体勢を崩して尻もちをつきながらも、私は聖歌から目を離せない。
嫌、嫌だ……! 聖歌、聖歌……お願いだから目を開けてよ!
また私の方を向いて……優しく笑いかけてよ……!
「……こいつ俺が見るから」
「お願い。愛音……行きましょう」
「いや……嫌! お願いっ、聖歌ぁ!!」
教室に残りたい一心で藻掻く私を、飛翔は強い力で引き剥がす。
広がっていく血溜まりの中心でぴくりとも動かない聖歌。そのすぐ傍で、鬼から与えられた死を大人しく享受する陽介。
もう、会えない。生きている二人には……会えない。
『ザザ……小野聖歌、日比野陽介、お題違反を確認。失格』
冷酷に告げられた『カミサマ』の放送。先程まで光を灯していた陽介の瞳は、虚ろに虚空を揺蕩っていて。
──それが、二人の姿を見た最後だった。
「お題いはん、はっけーん!」
それまで大人しかった鬼は、無邪気な声で空間を切り裂いた。
聖歌を足蹴に陽介へと飛びかかり、小さな手に握られたハサミを迷いなく胸元に突き立てる。
──ドス、という鈍い音と共に、窓辺に紅い鮮血が散った。
「あ……あぁ……」
「よう、すけ……お前……」
肉を裂く非情な響きが、皮肉なほど綺麗に、私達の記憶へと刷り込まれていく。
「……早く離れましょう」
「……っああ。羽田姉、立てるか?」
「聖歌……陽介……嫌ぁ!!」
そんなの嫌だ。ここで二人とお別れなんて……嫌だ!
どうしてなの。お題違反なら連れ去られるはずなのに……殺す、なんて。
──少しでもいいから触れたくて。その声がもう一度聞きたくて。
美月の制止をすり抜けて伸ばした私の腕は、聖歌に届くことはなかった。
「羽田!」
美月の代わりに、飛翔が私の腕を掴み、力任せに引っ張られる。体勢を崩して尻もちをつきながらも、私は聖歌から目を離せない。
嫌、嫌だ……! 聖歌、聖歌……お願いだから目を開けてよ!
また私の方を向いて……優しく笑いかけてよ……!
「……こいつ俺が見るから」
「お願い。愛音……行きましょう」
「いや……嫌! お願いっ、聖歌ぁ!!」
教室に残りたい一心で藻掻く私を、飛翔は強い力で引き剥がす。
広がっていく血溜まりの中心でぴくりとも動かない聖歌。そのすぐ傍で、鬼から与えられた死を大人しく享受する陽介。
もう、会えない。生きている二人には……会えない。
『ザザ……小野聖歌、日比野陽介、お題違反を確認。失格』
冷酷に告げられた『カミサマ』の放送。先程まで光を灯していた陽介の瞳は、虚ろに虚空を揺蕩っていて。
──それが、二人の姿を見た最後だった。



