渋々諦め、聖歌達を迎えに行くために、来た道を戻る。
 美月が懐中電灯の明かりで足元を照らし、私達はスマホのライトで周囲を探りながら、元いた校舎まで戻った。

「きゃはは……」

 渡り廊下から校舎に入る……そのタイミングで、高らかな笑い声が廊下に反響した。
 一階には聖歌達がいる……今の声は、多分一階からだ!

「少し待って」

 懐中電灯を持った美月が先導し、物陰からちらりと廊下を覗く。

「……いないわ」

「嘘……じゃあ鬼は教室の中?」

「かもしれないわね……」

 そんな……早く聖歌達の所に戻りたいのに、もし教室に鬼がいて気づかれたら元も子もない。

 ──その刹那、懊悩を無に帰す悲鳴が、耳朶を震わせた。

「きゃあぁぁ!!」

 ぴしり、と私達の空気が凍りつく。明らかに鬼の……気味の悪い、楽しげな声じゃない。
 誰かの……A組の生徒の悲鳴だ。

「い、今の声って」

「小野、か……?」

「っ──聖歌っ!!」

 私は廊下に飛び出し、目の前を見る。
 さっきの笑い声の主が、聖歌達を襲っているんだとしたら……それなら、ここでグダグダしている暇なんて無い!

 廊下に鬼は居ない。聖歌がいる教室は奥から二番目。そこまで……走る!

「……美月」

「……分かった。後から追いかけるわ」

「ありがとうっ」

 美月は私に懐中電灯を渡してくれる。受け取った私は、正面を見据えて走り出す。

 聖歌、陽介……お願いっ、無事でいて!!

 走りながらちらりと教室を見ても、そこに鬼らしき影はない。それが更に私の焦りを加速させる。