引き寄せられるように、はっと教室を見る。中には誰も居ないように見えて……ううん、違う。そう見えるだけだ。

 机の隙間から、ほんの少し、懐中電灯の明かりが漏れていた。

「……飛翔!」

 繋がれた手を引っ張り、反対の手でその教室の扉を開ける。飛翔と共に教室に転がり込むと、扉の傍でがたんと音がした。

「こっちに来んなぁ!」

 聞き覚えのある声がしたかと思うと、何を叩くような鈍い音が背後から聞こえる。

「ぐぅ……」

 慌てて振り返ると、そこにいたのは、鬼に何かを突き刺している二人──美月と愛音の姿だった。
 手に持ってるのは……掃除用具入れに仕舞われている、掃除に使う箒。

 鬼の鳩尾に深く刺さる箒の柄。廊下の壁に磔にされた鬼は、笑顔のままじたばたと藻掻く。
 それでも二人は箒に込める力を弱めない。

「美月……」

「馬鹿ね。不用意に声を出したらダメでしょう」

「ご、ごめん……」

 鬼から視線を外さないまま美月から諌められる。本当に……その通りです。

 次第に抵抗を止めた鬼は、笑い声を残してふっと消えてしまった。
 即座に教室の扉を閉めた美月は、箒を手放して、力が抜けたように床に腰を下ろす。

「まったく……結月は突っ走りすぎよ」

「はい……ごめんね、飛翔」

「怒ってねーよ。んなことより、皆無事で良かったよ」

 疲れきったのか壁にもたれかかり、にかっと笑いかけてくれる。私は一瞬安堵して、すぐに教室を見回した。
 やっぱり……茉美がいない。

「ねぇ、茉美は? 一緒に逃げたんじゃ……」

「……鬼に、攫われた」

「それってどういう……」

「私もよく分からない。逃げ込んだ後、鬼が教室に現れて、それで……」

 下唇を噛み締めながら首を振る愛音に、私も呆然とする。