と言うより、元々先生など存在しなかったように、職員室特有の引き締まった雰囲気がまるで無い。
 いつもと全く違う異質な光景に、ぞくりと怖気立つ。

「きっと、ゲームの参加者じゃないから弾かれてるのね」

 予想していたのか、美月の口調は落ち着いていた。
 最初に私達が宣言したんだ。参加者は2年A組の生徒20名だ……って。

 この学校にいるのは、私達2年A組に……『カミサマ』と、鬼だけ。

「そもそも鬼って何だろう。鬼ごっこなら捕まったら負け、だよね?」

「多分だけど鬼はさ……」

 茉美が首を傾げ、愛音が言いかけた時。

「くすくす……」

 背後から不気味な笑い声がした。
 聞き覚えのある笑い方に、つま先まで恐怖が走り抜ける。

 振り返った先にいたのは──月明かりを浴びながら遠くに佇む、小さな男の子。
 教室で皆を連れ去った子どもたちと全く同じ見てくれの、幼い子どもだった。

「な、何……」

「もしかして鬼って……」

 茉美や聖歌が理解したように顔を強ばらせる。

「くす……きゃはは!」

 男の子は一際大きな笑い声を上げたかと思うと、突然何かに突き動かされたようにこちらへ走り出した。

「走って!」

 鋭い美月の声に当てられ、私たちは全力で廊下を駆け抜ける。迫り来る足音が恐怖を加速させる。

 ちらりと後ろを見ると、男の子はさっきまで開いていた距離を少しずつ縮め、ほんの数メートル差まで来ているのが見えた。

 なんで速いの……!? 私たち中学生で、あの子は幼稚園児くらいなのに!!

「はぁっ、はぁ……っ」

「せっ、聖歌……大丈夫!?」

「む、無理、かも……」

 隣を走る聖歌のペースが落ちてる。このままじゃ追いつかれる!

「聖歌っ、私が引っ張るから、頑張って!」

 聖歌の手を掴み、けたたましい背後の足音を振り切るように、私は一目散に疾走する。

 先を走る三人の背中。皆、顔に焦りと恐怖が滲んでいる。
 捕まりたくない。その一心で、私は足音が遠くなるまで走り続け、聖歌と共に近くの教室に逃げ込む。

「はっ、はぁっ……」

 息がしづらい。酸素が欲しい。でもまだ近くにいるかもしれない……怖い。