「なんでこんな事に……」

「『カミサマ鬼ごっこ』が本物だったってことよ」

「でも……」

「……そうとしか言いようがないわ」

 微かに零れる月明かりと懐中電灯の光を頼りに、私達は廊下を歩く。
 いつ、どこから現れるかも分からない"鬼"に怯えながら。

「ねぇ……もしかしたら、まだ先生いるんじゃないかな?」

 確かに、あの先生は10時までいるって言ってた。
 でも……咲が落ちた時、すごく大きな音がした。それなのに、先生が気づいた様子はなく、皆が大声で叫んでもこちらに来ることは無かった。

 本当に……いるのかな。

「……行ってみましょうか」

 先生がいるならそれに越したことはない。私たちは踏み外さないように慎重に階段を降り、1階にある職員室にやって来た。

 遠くに見える職員室扉の前に、なにやらもぞもぞと動く人影がある。
 も、もしかして……鬼?

「大丈夫。……A組の子よ」

「そ、そっか」

 ほっと胸を撫で下ろすと、美月がその人影の方を懐中電灯で照らした。

「わっ」

「きゃっ」

「あ……茉美! 愛音!」

「その声……結月?」

 光に照らされた先にいたのは、古川茉美と加賀野愛音。偶に五人一緒に帰ったりするくらいの仲だ。
 茉美はよく場を和ませてくれて、愛音は真面目で人前に立つことが好き。性格は似てないけど大の仲良よし二人組なんだよね。

「二人も職員室に?」

 駆け寄りながら尋ねると、二人はこくりと頷く。

「もしかしたら先生いないかな思って。でも……」

 愛音が扉を開け、中を覗くよう私に手招きする。
 そっと職員室に目を向けると──そこはもぬけの殻だった。