先生×秘密 〜season2

中庭には、夕方の風が吹いていた。

誰もいないベンチに、小さくしゃがみこんでいるのはコメだった。
鼻をすする音が、草のざわめきに混ざって聞こえる。

「……泣きすぎな」

後ろから、懐かしい声がした。

顔をあげると、角谷が立っていた。

驚いたような、でもどこか安心したような顔で、コメは目をそらす。

「……ひさしぶり、ですね。二人で話すの」

角谷は黙ってうなずくと、少しだけ距離をとって隣に腰をおろした。

しゃがんだままのコメの横顔を見ながら、角谷はふと思い出す。

——新任の時、教室で泣いていたコメに、何度も「ヨシヨシ」してあげたっけ。

あのときと同じように、頭を撫でてやりたい。
けれど、もうそれはできない。
彼女は今、もう生徒じゃない。


コメがぽつりとつぶやく。

「ずっと、大切な存在だった。今も……変わらない」

涙の跡が残る笑顔で、彼女は言った。

「来年も、またこんなふうに一緒に同じ景色、見ようね」

角谷は、少しだけ笑った。

コメの目を見ず、前だけを見て、風の中で小さくうなずいた。

「……ああ」

その言葉だけに、今の角谷のすべてが詰まっていた。

どんな未来を選ぶとしても——
二人の間には、確かに“あの頃”の続きがあった。