先生×秘密 〜season2

「入場してくださーい」

呼ばれてステージへ向かう生徒たちの背中が、ほんの少しだけ大人びて見えた。

控え室に残る教員たちの間にも、緊張が走る。
コメはひとり、そっと体育館の扉の前に立ち、指先をぎゅっと握る。

(がんばれ)

言葉にしなくても、届いてほしいと願いながら、息をのむ。

***

ステージの上。
いつもふざけてる男子が、まっすぐ前を見て立っていた。
泣き虫の女子が、声を震わせながらもしっかりとマイクの前に立った。

ピアノの前に座る子は、何度も何度も練習していた。

(「大丈夫」って言い続けて、ここまで来たね)

曲が始まる。
最初の音が流れた瞬間、体育館の空気が変わった。

声が重なっていく。

——受験が終わった子もいる。
——まだ結果を待ってる子もいる。
——これから挑む子もいる。

それぞれが違う“今”を抱えている。
けれど、ひとたび歌が始まれば、誰ひとり取り残されなかった。

「この歌で、少しでも届けばいい」
「いまのこの瞬間を、忘れたくない」

そんな想いがぶつかり合って、響き合って、
気づけば、会場のあちこちですすり泣く音が聞こえていた。

(大丈夫。あなたたちは、こんなにも強い)

コメは、自然と涙があふれていた。

隣で見守っていた角谷も、静かに目頭を押さえていた。

歌が終わった瞬間、体育館に大きな拍手が響いた。
それは“評価”でも“審査”でもなく、ただただ——“讃えたい”という拍手だった。

ステージの上で生徒たちは深くお辞儀をし、
そのあと、こらえきれずに顔を見合わせ、笑った。

泣きながら、笑った。

***

「先生!どうだった!?」

終演後、駆け寄ってきた生徒に、コメは迷わず言った。

「すごく、すごく、よかったよ。泣いた」

「えー、泣かせた!やったー!!」

「ほんと!?合唱で泣かせるって、最高じゃん!」

こんな日が来るなんて。
不安と緊張を何度も乗り越えて、迎えた今日。

(それぞれの進路は違っても、この時間は、誰のものでもない“みんなのもの”だった)

春はすぐそこまで来ている。