「コメ先生、ウーロン茶でいいんですか? もっといっちゃいましょー!」
「いやいや、昼間ずっと接客してたから、もうヘロヘロで……」
打ち上げ会場は、駅前の居酒屋。
貸し切られた個室に、教師たちがずらりと並ぶ。
熱気。笑い声。
今日一日を駆け抜けたあとの、心地いい疲れと高揚感。
「今日の理科室、すごかったって評判ですよ!」
「錯覚のやつ、マジでびびった〜!」
先生たちが興奮気味に話しかけてくるたび、コメは笑顔で応える。
けれどどこか、うわの空だった。
視界の端。
少し離れたテーブルに、渡部がいる。
黒いシャツの袖をまくって、酒を片手に、談笑している。
ときどき笑い、うなずき、誰かに絡まれれば肩をすくめて返す。
(いつも通りの先生。……なのに)
気づけば、視線が吸い寄せられていた。
⸻
「……コメ先生、さっきから静かじゃない?」
不意に、隣から話しかけてきたのは、杉山先生。
明るくて、頼れる家庭科の先生。コメより少し年上で、よくお昼を一緒に食べている。
「え、そうですか?」
「まーた心の声が顔に出てるよ。疲れ?それとも……“あれ”?」
「“あれ”ってなんですか」
「ふふ、内緒」
コメがむくれると、杉山はいたずらっぽく笑った。
⸻
二次会。
もうお酒もまわってきて、にぎやかさの温度も上がってきた頃。
「センセー!こっちあいてますよー!」
言いながらコメの隣に座ってきたのは、吉原先生。
体育の先生で、元気いっぱい。距離感がちょっと近いタイプ。
「ていうかさ〜、渡部先生とコメ先生って、意外と仲いいっすよね?」
「え? そんなことないですよ」
「えー?あやしいな〜、なんか目ぇ合ってませんでした?」
「……気のせいじゃないですか?」
笑ってごまかしながらも、心臓が少し早くなる。
そのとき──
渡部がふと立ち上がり、トイレへ向かった。
無意識に、その背中を目で追っていた。
⸻
帰り道。夜風。
「コメ先生、送ってくよ」
角谷が、いつもの優しい声で言う。
「……ありがとうございます」
一緒に歩きながら、コメは気づいていた。
角谷と並んで歩く距離感には、何の高鳴りもなかった。
心のどこかで、
今夜、確かに、
何かが燃え始めていた。
「いやいや、昼間ずっと接客してたから、もうヘロヘロで……」
打ち上げ会場は、駅前の居酒屋。
貸し切られた個室に、教師たちがずらりと並ぶ。
熱気。笑い声。
今日一日を駆け抜けたあとの、心地いい疲れと高揚感。
「今日の理科室、すごかったって評判ですよ!」
「錯覚のやつ、マジでびびった〜!」
先生たちが興奮気味に話しかけてくるたび、コメは笑顔で応える。
けれどどこか、うわの空だった。
視界の端。
少し離れたテーブルに、渡部がいる。
黒いシャツの袖をまくって、酒を片手に、談笑している。
ときどき笑い、うなずき、誰かに絡まれれば肩をすくめて返す。
(いつも通りの先生。……なのに)
気づけば、視線が吸い寄せられていた。
⸻
「……コメ先生、さっきから静かじゃない?」
不意に、隣から話しかけてきたのは、杉山先生。
明るくて、頼れる家庭科の先生。コメより少し年上で、よくお昼を一緒に食べている。
「え、そうですか?」
「まーた心の声が顔に出てるよ。疲れ?それとも……“あれ”?」
「“あれ”ってなんですか」
「ふふ、内緒」
コメがむくれると、杉山はいたずらっぽく笑った。
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二次会。
もうお酒もまわってきて、にぎやかさの温度も上がってきた頃。
「センセー!こっちあいてますよー!」
言いながらコメの隣に座ってきたのは、吉原先生。
体育の先生で、元気いっぱい。距離感がちょっと近いタイプ。
「ていうかさ〜、渡部先生とコメ先生って、意外と仲いいっすよね?」
「え? そんなことないですよ」
「えー?あやしいな〜、なんか目ぇ合ってませんでした?」
「……気のせいじゃないですか?」
笑ってごまかしながらも、心臓が少し早くなる。
そのとき──
渡部がふと立ち上がり、トイレへ向かった。
無意識に、その背中を目で追っていた。
⸻
帰り道。夜風。
「コメ先生、送ってくよ」
角谷が、いつもの優しい声で言う。
「……ありがとうございます」
一緒に歩きながら、コメは気づいていた。
角谷と並んで歩く距離感には、何の高鳴りもなかった。
心のどこかで、
今夜、確かに、
何かが燃え始めていた。



