先生×秘密 〜season2

昼休み。
教室の扉を開けると、あちこちで歌声が響いていた。
今年度最後の行事、合唱コンクール

「ちょっと男子、テンポ速すぎ!ピアノより走ってるって!」

「女子の声、小さくない? なんか自信なさげ!」

生徒たちが輪になって、笑ったり、ぶつかったりしながら音を重ねている。
誰か一人が音を外せば、それに気づいた誰かがそっと修正する。
昨日までバラバラだったパートが、少しずつまとまりはじめていた。

窓から差し込む冬の光に、白い息がふわりと混じる。

(この季節の教室、好きかもしれない)

角谷がドアの外から様子を覗きながら、小さく笑った。

「青春ってやつですね」

「なんですか、そのテンプレみたいな言い方」

「だって、そう見える。コメ先生も、あんな感じだったんじゃないですか?」

コメは少しだけ視線を落とし、答えなかった。

たしかに、そうだったかもしれない。
誰かと歌って、誰かを意識して、胸をぎゅっと締めつけられて。

そしていま、教える立場になっても——
同じ気持ちが、胸のどこかに残っていた。

***

体育館では、最後のリハーサルが始まっていた。

「後ろ、もっと声出してー!」

指揮をする女子の腕が真っ直ぐ振り上がり、
伴奏のピアノが息を飲むようなテンポで進んでいく。

ステージの下から、それを見つめる角谷。

「やるなぁ、B組……」

「あの子たち、受験で追い詰められてる子もいたけど、ここに向けてはすごく頑張ってた」

「……“ここに向けて”。なんかいい言葉ですね」

そう言いながら、ふと口をつぐんだ角谷の横顔を、コメは横目で見る。

もしかして。
来年、自分も“ここに向けて”生徒たちを引っ張っていくことになるのだろうか。

(……できるかな)

不安と期待が交錯する。

「コメ先生も、頑張るでしょ。俺と同じように」

「……うん、頑張る」

体育館の空気が、ピンと張りつめる。
最後の一曲が終わると、生徒たちから自然と拍手が起こった。

その中心にいるのは、生徒たち自身。
誰のためでもない、ただ自分たちのために歌っている姿が、まぶしかった。

そして、本番の幕が上がる。