昼休みの職員室。
いつもどおりのざわめきの中、角谷は手元のマグカップに目を落とす。
入れたばかりのコーヒーは、もうすっかり冷めていた。
(……いつからだろう)
最近、コメの笑顔に、ほんの少しだけ影を感じるようになったのは。
はじめは自分のせいだと思っていた。
進路指導でいっぱいいっぱいで、話す余裕も持てなくなっていた。
余裕がないことを知られたくなくて、強がって、強がって……
結果、距離を置いてしまっていた。
でも。
(……それだけじゃないな)
先日、渡部とふと話したとき。
あのとき、確かに彼は何かをにおわせた。
「……昔が、あの子にとって大きな存在だったんじゃないかな」
あの言葉の重さを、忘れられなかった。
(……“教え子”ってだけじゃ、ない)
きっと、自分がまだ知らない時間がある。
コメが、誰かを思っていた時間が。
それを知ってしまったからといって、何が変わるわけじゃない。
でも、
知った上で、
受け止めて、
それでも一緒にいたいと、もう一度言いたかった。
——彼女が、何も言ってこないのは、
言わないことで守ろうとしてくれているからかもしれない。
(だからこそ、俺から行かなきゃいけない)
彼女にとって、“ここ”が選びたい場所なら。
(引き止めたい。……この学校に)
そう思った瞬間、
冷えたコーヒーが、ほんの少しだけ甘く感じられた気がした。
角谷は立ち上がり、マグを片手に給湯室へ向かう。
——今度こそ、ちゃんと、温かいままの気持ちを届けるために。
いつもどおりのざわめきの中、角谷は手元のマグカップに目を落とす。
入れたばかりのコーヒーは、もうすっかり冷めていた。
(……いつからだろう)
最近、コメの笑顔に、ほんの少しだけ影を感じるようになったのは。
はじめは自分のせいだと思っていた。
進路指導でいっぱいいっぱいで、話す余裕も持てなくなっていた。
余裕がないことを知られたくなくて、強がって、強がって……
結果、距離を置いてしまっていた。
でも。
(……それだけじゃないな)
先日、渡部とふと話したとき。
あのとき、確かに彼は何かをにおわせた。
「……昔が、あの子にとって大きな存在だったんじゃないかな」
あの言葉の重さを、忘れられなかった。
(……“教え子”ってだけじゃ、ない)
きっと、自分がまだ知らない時間がある。
コメが、誰かを思っていた時間が。
それを知ってしまったからといって、何が変わるわけじゃない。
でも、
知った上で、
受け止めて、
それでも一緒にいたいと、もう一度言いたかった。
——彼女が、何も言ってこないのは、
言わないことで守ろうとしてくれているからかもしれない。
(だからこそ、俺から行かなきゃいけない)
彼女にとって、“ここ”が選びたい場所なら。
(引き止めたい。……この学校に)
そう思った瞬間、
冷えたコーヒーが、ほんの少しだけ甘く感じられた気がした。
角谷は立ち上がり、マグを片手に給湯室へ向かう。
——今度こそ、ちゃんと、温かいままの気持ちを届けるために。



