先生×秘密 〜season2

昼休みの職員室。
いつもどおりのざわめきの中、角谷は手元のマグカップに目を落とす。
入れたばかりのコーヒーは、もうすっかり冷めていた。

(……いつからだろう)

最近、コメの笑顔に、ほんの少しだけ影を感じるようになったのは。

はじめは自分のせいだと思っていた。
進路指導でいっぱいいっぱいで、話す余裕も持てなくなっていた。
余裕がないことを知られたくなくて、強がって、強がって……
結果、距離を置いてしまっていた。

でも。

(……それだけじゃないな)

先日、渡部とふと話したとき。
あのとき、確かに彼は何かをにおわせた。


「……昔が、あの子にとって大きな存在だったんじゃないかな」

あの言葉の重さを、忘れられなかった。

(……“教え子”ってだけじゃ、ない)

きっと、自分がまだ知らない時間がある。
コメが、誰かを思っていた時間が。

それを知ってしまったからといって、何が変わるわけじゃない。
でも、
知った上で、
受け止めて、
それでも一緒にいたいと、もう一度言いたかった。

——彼女が、何も言ってこないのは、
言わないことで守ろうとしてくれているからかもしれない。

(だからこそ、俺から行かなきゃいけない)

彼女にとって、“ここ”が選びたい場所なら。

(引き止めたい。……この学校に)

そう思った瞬間、
冷えたコーヒーが、ほんの少しだけ甘く感じられた気がした。

角谷は立ち上がり、マグを片手に給湯室へ向かう。
——今度こそ、ちゃんと、温かいままの気持ちを届けるために。