先生×秘密 〜season2

教務室の端。
「これ、今週中に提出お願いしますね」
そう言われて手渡された紙の存在が、コメの心にずしりとのしかかっていた。

異動希望調査票。
前ももらったけど、白紙のままなので、事務員さんがもう一度渡しに来る。
その紙はまるで人生の分岐点のように重たく感じられた。

「コメ先生は、異動……出すんですか?」

隣の席の先生にそう聞かれ、コメは曖昧に笑ってごまかした。

「まだ、ちょっと……」

机の引き出しにしまったままの白紙。
そこに“希望しない”と書けば、来年もこの学校にいられるかもしれない。
でも、その場合——

角谷先生とは、どうするの?

このまま「つきあってます」とオープンにする?
それとも、バレないように、この一年みたいに、隠して過ごす?

(……いや、そんなの、角谷先生と話し合わなきゃ)

そう思っても、最近の彼は疲れている。
受験生をもつ担任として、毎日気を張って、終わればぐったりしてる。
たまに会っても、弱音を吐くばかりで——

(……言えないよ、こんな大事な話)

彼に「残っていい?」って聞くこともできずに、
彼に「一緒にいよう」って言ってもらう余裕すら、今の彼にはなさそうで。

(私、どうしたらいいの)

職員室の窓の外、風に揺れるグラウンドを見ながら、コメはため息をついた。

残りたい——
それは、“この学校”に? “彼のそば”に? それとも——

手元の用紙は、今日も白紙のままだった。