先生×秘密 〜season2

放課後の教室。
生徒たちが帰ったあと、ほんのり甘い香りが残っているのは、誰かが配ったキャンディのせいだろうか。

「……角谷先生」

帰り支度をしている背中に、コメは少し声を高めて呼びかけた。

「ん?」

くるりと振り返った角谷の目は、どこかぼんやりしていた。

「ちょっと……話、したいことがあって」

「ごめん、今から職員会議で。」

それだけ言って、彼は教室を出て行った。
いつもなら「あとでね」と笑ってくれるのに、今日はその“あとで”すらなかった。

残された教室で、コメは手元の紙袋を見つめた。
その中には、昨夜眠い目をこすりながら作ったチョコレートの試作品。

……気合、入れすぎたかな。



「はあ~~~~!!!」
「はいきた、ため息女王!」
「何そのテンプレため息!なんかあったでしょ?」

放課後、カフェで集まったコメ・しげ・カオリは、温かいラテを手に恋バナモード全開。

「てかもうすぐバレンタインでしょ?チョコあげるんでしょ?」

「……うん、あげる予定なんだけどね」

「なんかテンション低くない!?なにがあったの!」

しげが乗り出してきたので、コメは小さく笑ってからスプーンをかちゃりと鳴らした。

「最近、ちょっとよそよそしい気がして……いや、私の思いすごしかな。でも、今日も話しかけたらそっけなくて」

「あるある!そういう時あるよ!」
「そう!男の人って忙しいとすぐ無口になるし、こっちが“察してほしい”オーラ出すと逃げるから!」

「……そっか。だよね」

コメは笑いながらもう一口ラテを飲んだ。
胸の奥に残る、ほろ苦い泡のような気持ち。

「でも、せっかくだし渡しなよ!チョコ!」
「うん、手作りでしょ?それだけで十分嬉しいって!」

すると、カオリがふと笑って、リボンのかかった袋をちらりと指さした。

「念のため確認だけど……そのチョコって、誰のために作ったやつ?」

「え?……角谷先生、だけど?」

「……だよね。一瞬、渡部先生にかと思った」

「は?」

コメがぽかんとした瞬間、しげがスプーンをテーブルに置いた。

「ちょっとちょっとちょっと!!今、渡部先生の話題、いっさい出てなかったよね!?ね!?あんた、何で急に爆弾落とすの!」

「え、いや、ちょっとそういう空気を感じただけで……ごめんごめん!」

「空気!?なにそのアンテナ!勝手に拾うなっての!」

笑いながらも、コメの胸の奥に小さな波紋が広がっていた。

渡部先生——
なんでその名前が出てくるんだろう。