先生×秘密 〜season2

放課後、静まりかけた職員室。
窓の外には淡い夕焼け。西の空が、オレンジと群青ににじんでいる。

コメは、自分のデスクに戻りながら書類の山に目を落とした。
生徒の進路希望調査、冬休みの課題プリント、そして……
封筒の中には、異動希望の確認書。

——書いて、出せばいいだけの話。
それだけなのに、もう何日、机の引き出しで眠らせているのだろう。

(角谷先生と付き合っていることを、伝えるべきだ)

それが、本当の誠実。
それが、社会人としての責任。
わかってる。ちゃんと、わかってる。

でも——

「……もう一年、ここにいられたら」

つぶやいた言葉は、自分の声なのに、他人事みたいだった。

渡部先生と、朝の打ち合わせで交わすちょっとした視線。
廊下で、生徒たちに囲まれる角谷先生を、遠くから見る時間。
誰にも言えない、けれど確かにここにある関係と感情。

(バレなければ、あと一年……このままでいられるのかな)

そんな考えが浮かぶたび、胸の奥に小さな痛みが走る。

バレなければ——
でも、“バレない”ってなんだ?

誰にも言わずに、こそこそ隠して、
本当に、教師として、これでいいのか?

(いや……違う)

わかってる。
わかってるけど、でも、まだ……言えない。

印刷機の音だけが響く職員室で、
コメはふと、窓の外に目をやった。

遠く、運動場の鉄棒に夕陽が反射して、キラリと光っていた。

(自分は、なにを守ろうとしているんだろう)

信頼?立場?それとも、渡部先生への未練?

——答えは出ない。
でも、ひとつだけ確かなのは。

「わたし、まだ……この学校にいたいんだ」

その想いだけが、胸の奥で静かに、確かに、灯っていた。