先生×秘密 〜season2

冬休み。年末の午後。

駅前のショッピングモールは、家族連れやカップルで賑わっていた。

「これ、どう? 似合う?」

コメは、首元にスヌードを当ててみせた。

「いいと思うよ。あったかそうだし」

角谷は少し照れたように笑って、コメの手からスヌードを取ってレジに向かった。

「え? 自分で買うってば!」

「いいの。俺がプレゼントしたものを身につけてくれるのうれしいから」

——やさしい。

いつも角谷は、やさしい。ちゃんと見てくれる。
無理に入り込もうとせず、でも必要なときには寄り添ってくれる。

「……ありがとう」

笑って、手をつないだ。
温かくて、心地よかった。

***

そのあと、二人でカフェに入った。

窓際の席でホットココアを飲みながら、年末の話、来年のこと、仕事のこと──
他愛もない話をぽつぽつと交わす。

「来年もまた、こうやって過ごせるといいね」

角谷が言ったとき、コメは笑顔でうなずいた。
でも、その胸の奥に、すこしだけ冷たい風が吹いた気がした。

(ほんとうに、来年も同じ景色を見たいと思ってる?)

自分に問う。
答えは、はっきりしなかった。

***

帰り道。夕暮れの空。

角谷が改札で手を振る。

「また連絡するね。風邪ひかないように」

「うん、ありがとう。気をつけて」

角谷が改札を抜けたあと、コメはその場に少しだけ立ち尽くした。

スマホの画面を見た。
何も通知は来ていなかった。
——べつに、期待していたわけじゃない。

それでも、
“あの人”なら、
今この時間、なにしてるだろうと思ってしまう自分がいた。

(幸せなはずなのに)
(なのに、なんで)

風が吹いて、マフラーの端が揺れた。

小さなとげが、心に残ったまま、年末の街に夜が降りていった。