職員室の片隅、誰もいない給湯室。
冬の夕方、白い湯気がカップからふわりと立ち上る。
その向こうで、角谷が紙コップを手にしながら言った。
「……明日で、仕事納めだね」
コメは温かい紅茶を口に運びながら、うなずいた。
「なんだか、あっという間でした」
「特に今年はね」
角谷はそう言って、ちらりとコメの横顔を見る。
コメも視線を感じて、ゆっくりと目を向けた。
「先生、年末年始は帰省ですか?」
ふとした問いだった。口にしたあとで、コメは少しだけ目線を落とす。
でも角谷は、にこっと笑った。
「帰ろうと思ってたんだけど……やめようかなって」
「え?」
「コメ先生が、ひとりで年越しなら。……一緒にいてもいいかなって」
冗談めかして言いながら、彼は湯気の向こうで少しだけ頬をかいた。
「え、それって……」
戸惑いながらも、コメの口元がほんの少し緩む。
角谷の視線を避けるように、カップの中を見つめた。
「……じゃあ、ケーキくらいは買っておきます」
ぽつんと落ちたその言葉に、角谷が目を細めた。
「やった。……じゃあ、紅白、録画しとこうかな」
「早いですよ、それ」
ふたりの笑い声が、湯気と一緒に天井にのぼっていった。
給湯室のドアが少しだけ開いて、冬の冷たい空気が入り込んできた。
だけどその風すら、今は心地よく感じられた。



