年の瀬が近づくある午後、チャイムが鳴ったあと、コメは校長室へと呼び出された。
「コメ先生、ちょっとだけ時間いいですか?」
事務からそう伝えられ、教室でプリントを片付けていた手を止める。
ふっと、胸の奥がざわついた。
校長室のドアをノックすると、中から穏やかな声が返ってくる。
「どうぞ」
冬の西陽が、ブラインド越しに柔らかく差し込んでいた。
校長はコメにお茶を差し出しながら、いつものようににこやかに切り出す。
「今日はね、ちょっと進路の話で。
その前に、三者面談の資料、拝見しましたよ。
君も資料作り手伝ったみたいだね」
「はい」
「丁寧な記録でした。保護者の印象まで、ちゃんと添えてある。あれは助かります」
コメは小さく頭を下げた。
──そのまま終わるかと思った。
けれど、校長は少し表情を変えて、言葉を続けた。
「……ただね。先生、来年、異動を考えてると言ってましたよね」
「あ……はい。」
「惜しいなぁ」
その言葉に、コメのまぶたがわずかに揺れた。
「この半年、先生が一年生の生徒たちからどれだけ信頼を得たか……職員室でも、よく話題に上がりますよ。
学年主任の渡部先生も、頼りにしているようだし」
(……渡部先生、って)
名前が出た瞬間、どこかで張っていた糸がピンと緊張した。
「できれば、このまま来年は三年生を見てもらえたら、って思っていたんです」
「……」
「生徒の進路を支えるには、先生自身の進路も大事です。そうは思いませんか?」
まるで見透かすようなまなざしに、コメは言葉を失っていた。
「先生、どこかに気がかりなことがあるなら……何か悩んでいるなら、遠慮なく相談してくださいね。
うちは、教師同士もチームなんだから」
コメはうつむきながら、小さく「はい」とだけ答えた。
お茶は、もうすっかり冷めていた。
***
職員室に戻ると、角谷が書類をめくっていた。
「おかえり。……校長室?」
「うん。進路の話で」
「……そっか」
角谷の視線が、どこか遠くを見ていた。
胸の奥がぎゅっとなった。
「コメ先生、ちょっとだけ時間いいですか?」
事務からそう伝えられ、教室でプリントを片付けていた手を止める。
ふっと、胸の奥がざわついた。
校長室のドアをノックすると、中から穏やかな声が返ってくる。
「どうぞ」
冬の西陽が、ブラインド越しに柔らかく差し込んでいた。
校長はコメにお茶を差し出しながら、いつものようににこやかに切り出す。
「今日はね、ちょっと進路の話で。
その前に、三者面談の資料、拝見しましたよ。
君も資料作り手伝ったみたいだね」
「はい」
「丁寧な記録でした。保護者の印象まで、ちゃんと添えてある。あれは助かります」
コメは小さく頭を下げた。
──そのまま終わるかと思った。
けれど、校長は少し表情を変えて、言葉を続けた。
「……ただね。先生、来年、異動を考えてると言ってましたよね」
「あ……はい。」
「惜しいなぁ」
その言葉に、コメのまぶたがわずかに揺れた。
「この半年、先生が一年生の生徒たちからどれだけ信頼を得たか……職員室でも、よく話題に上がりますよ。
学年主任の渡部先生も、頼りにしているようだし」
(……渡部先生、って)
名前が出た瞬間、どこかで張っていた糸がピンと緊張した。
「できれば、このまま来年は三年生を見てもらえたら、って思っていたんです」
「……」
「生徒の進路を支えるには、先生自身の進路も大事です。そうは思いませんか?」
まるで見透かすようなまなざしに、コメは言葉を失っていた。
「先生、どこかに気がかりなことがあるなら……何か悩んでいるなら、遠慮なく相談してくださいね。
うちは、教師同士もチームなんだから」
コメはうつむきながら、小さく「はい」とだけ答えた。
お茶は、もうすっかり冷めていた。
***
職員室に戻ると、角谷が書類をめくっていた。
「おかえり。……校長室?」
「うん。進路の話で」
「……そっか」
角谷の視線が、どこか遠くを見ていた。
胸の奥がぎゅっとなった。



