夜道をひとりで歩く帰り道。
肩にかけたトートが軽く揺れるたびに、心の奥の言葉たちが浮かんでは沈んでいく。
スマホがまた震えた。
【渡部先生:いまどこ?】
コメは、すこしだけためらってから、返信を打った。
【コンビニの前。アイス買うか迷ってる】
【……買っとけ】
吹き出しそうになった。
そして、気づかないうちに頬がゆるんでいた。
【どこにいるんですか?】
【もうすぐ角のとこ】
【見えてます】
すぐに返事は来なかった。
けれど、ほんの少ししてから、足音がした。
渡部が、いた。
スーツの上着を脱いでシャツの袖を折り返し、手にはコンビニの袋。
目が合った瞬間、コメはなんでもないふりをして言った。
「アイス、買いました」
「見りゃわかる」
「先生は?」
「ビールと、冷凍の焼きおにぎり」
「なんでそのチョイス……」
ふたりで並んで歩き出す。
何を話すでもなく、でも沈黙も不思議と苦しくはなかった。
「……今日、楽しかった?」
「うん。疲れたけど」
「角谷、すごかったな。応援団の声」
「はい。人気爆発中です」
「……そっか」
渡部の声が、少しだけ低くなったように聞こえた。
「先生も人気ありますよ。あんまり本人が自覚してないだけで」
「そうか?」
「ええ、そっけないところが、たまに刺さるらしいです」
「……それは困ったな」
ふと、足が止まった。
公園の前。ブランコが静かに揺れていた。
「先生」
「ん?」
「……私、もう少しだけ、角谷先生とちゃんと向き合いたいです」
「……」
「ちゃんと、まっすぐ好きになってみようと思ってるんです」
「……そうか」
渡部は、それ以上なにも言わなかった。
ただ、空を見ていた。
「……でも、先生と喋ると、少しだけホッとするのは、今も変わらないです」
「……それは、教師として嬉しいって思っとくよ」
苦いような、でもどこか優しい声音だった。
***
別れ際、コメが背を向けた瞬間、渡部はふとつぶやいた。
「……俺も、もうちょっとだけ、迷ってていいか」
その声は、夜風に紛れて、届かなかった。
でも、誰よりも本当の気持ちを知っているのは、ふたりだけだった。
肩にかけたトートが軽く揺れるたびに、心の奥の言葉たちが浮かんでは沈んでいく。
スマホがまた震えた。
【渡部先生:いまどこ?】
コメは、すこしだけためらってから、返信を打った。
【コンビニの前。アイス買うか迷ってる】
【……買っとけ】
吹き出しそうになった。
そして、気づかないうちに頬がゆるんでいた。
【どこにいるんですか?】
【もうすぐ角のとこ】
【見えてます】
すぐに返事は来なかった。
けれど、ほんの少ししてから、足音がした。
渡部が、いた。
スーツの上着を脱いでシャツの袖を折り返し、手にはコンビニの袋。
目が合った瞬間、コメはなんでもないふりをして言った。
「アイス、買いました」
「見りゃわかる」
「先生は?」
「ビールと、冷凍の焼きおにぎり」
「なんでそのチョイス……」
ふたりで並んで歩き出す。
何を話すでもなく、でも沈黙も不思議と苦しくはなかった。
「……今日、楽しかった?」
「うん。疲れたけど」
「角谷、すごかったな。応援団の声」
「はい。人気爆発中です」
「……そっか」
渡部の声が、少しだけ低くなったように聞こえた。
「先生も人気ありますよ。あんまり本人が自覚してないだけで」
「そうか?」
「ええ、そっけないところが、たまに刺さるらしいです」
「……それは困ったな」
ふと、足が止まった。
公園の前。ブランコが静かに揺れていた。
「先生」
「ん?」
「……私、もう少しだけ、角谷先生とちゃんと向き合いたいです」
「……」
「ちゃんと、まっすぐ好きになってみようと思ってるんです」
「……そうか」
渡部は、それ以上なにも言わなかった。
ただ、空を見ていた。
「……でも、先生と喋ると、少しだけホッとするのは、今も変わらないです」
「……それは、教師として嬉しいって思っとくよ」
苦いような、でもどこか優しい声音だった。
***
別れ際、コメが背を向けた瞬間、渡部はふとつぶやいた。
「……俺も、もうちょっとだけ、迷ってていいか」
その声は、夜風に紛れて、届かなかった。
でも、誰よりも本当の気持ちを知っているのは、ふたりだけだった。



