先生×秘密 〜season2

夜道をひとりで歩く帰り道。
肩にかけたトートが軽く揺れるたびに、心の奥の言葉たちが浮かんでは沈んでいく。

スマホがまた震えた。

【渡部先生:いまどこ?】

コメは、すこしだけためらってから、返信を打った。

【コンビニの前。アイス買うか迷ってる】

【……買っとけ】

吹き出しそうになった。
そして、気づかないうちに頬がゆるんでいた。

【どこにいるんですか?】

【もうすぐ角のとこ】

【見えてます】

すぐに返事は来なかった。
けれど、ほんの少ししてから、足音がした。

渡部が、いた。

スーツの上着を脱いでシャツの袖を折り返し、手にはコンビニの袋。
目が合った瞬間、コメはなんでもないふりをして言った。

「アイス、買いました」

「見りゃわかる」

「先生は?」

「ビールと、冷凍の焼きおにぎり」

「なんでそのチョイス……」

ふたりで並んで歩き出す。
何を話すでもなく、でも沈黙も不思議と苦しくはなかった。

「……今日、楽しかった?」

「うん。疲れたけど」

「角谷、すごかったな。応援団の声」

「はい。人気爆発中です」

「……そっか」

渡部の声が、少しだけ低くなったように聞こえた。

「先生も人気ありますよ。あんまり本人が自覚してないだけで」

「そうか?」

「ええ、そっけないところが、たまに刺さるらしいです」

「……それは困ったな」

ふと、足が止まった。
公園の前。ブランコが静かに揺れていた。

「先生」

「ん?」

「……私、もう少しだけ、角谷先生とちゃんと向き合いたいです」

「……」

「ちゃんと、まっすぐ好きになってみようと思ってるんです」

「……そうか」

渡部は、それ以上なにも言わなかった。
ただ、空を見ていた。

「……でも、先生と喋ると、少しだけホッとするのは、今も変わらないです」

「……それは、教師として嬉しいって思っとくよ」

苦いような、でもどこか優しい声音だった。

***

別れ際、コメが背を向けた瞬間、渡部はふとつぶやいた。

「……俺も、もうちょっとだけ、迷ってていいか」

その声は、夜風に紛れて、届かなかった。

でも、誰よりも本当の気持ちを知っているのは、ふたりだけだった。