「そこの隊列、斜めってるぞー!」
放課後のグラウンドに、低くてよく通る声が響いた。
秋の夕日が差し込む中、応援練習の輪の中心にいたのは、
腕を組んで仁王立ちする、角谷だった。
白いポロシャツ、動きやすいジャージ。額にはタオル。
生徒と同じように土の上に立ち、声を張り上げている。
「かっこいい……!」
「え、普通にマンガみたいじゃない? 角谷先生!」
「なんか最近、一段とキレてない? 付き合ってる彼女のため?」
女子生徒たちのざわめきが、グラウンドの端に広がっていく。
コメは、保健室に提出するプリントの帰り道、足を止めてその光景を見ていた。
──角谷先生が、応援団長をやる。
学年主任に頼まれたとはいえ、ここまで熱くなって指導している姿を見るのは、実ははじめてだった。
「一本締め、いくぞー!」
「「「よーっ!」」」
ビシッとそろった声が夕暮れに響く。
その瞬間、ふいに角谷がこちらに気づいた。
軽くタオルを持ち上げて、コメに手を振る。
コメも、笑顔で小さく手を振り返した。
だけど──
どこか、その笑顔の奥に、もやのようなざわめきが残っていた。
***
職員室に戻ると、渡部がファイルを閉じる音がした。
「……外、にぎやかですね」
「応援練習。角谷先生、ノッてるよ」
「……ふうん」
その一言のあと、渡部は自席のファイルに目を戻した。
コメは、自分の席に腰を下ろしながら、斜め向かいにいる彼の横顔を見た。
静かに仕事をこなす姿。
でも、どこかピリついた空気を感じるのは、気のせいだろうか。
──渡部先生には、角谷先生のこと、どう見えてるんだろう。
そう思ってしまう自分に、ふっと苦笑する。
彼らは、仕事仲間。
それ以上でも、それ以下でもない。
……たぶん。
***
「センセー!三年の応援合戦、めちゃくちゃ気合い入ってますよ!」
廊下ですれ違った男子生徒が、笑いながらコメに言った。
「そうなの? 頑張ってね。三年生はラストだもんね」
「角谷先生もめっちゃ気合い入ってるし!あんな真面目な先生だったんだなーって、ちょっと見直したかもっす」
そう言って、笑いながら駆けていく。
コメは笑って見送る。
(……角谷先生って、そういうふうに見えるんだ)
誠実で、真面目で、生徒想いで。
でも、その裏で何かを気にしていることを、知っているのは、たぶん自分だけ。
——体育祭まであと少し。
それぞれが、自分の役割をまっとうしながら、
それでもどこかで“誰かの目”を意識している。
そんな日々が、静かに続いていた。
放課後のグラウンドに、低くてよく通る声が響いた。
秋の夕日が差し込む中、応援練習の輪の中心にいたのは、
腕を組んで仁王立ちする、角谷だった。
白いポロシャツ、動きやすいジャージ。額にはタオル。
生徒と同じように土の上に立ち、声を張り上げている。
「かっこいい……!」
「え、普通にマンガみたいじゃない? 角谷先生!」
「なんか最近、一段とキレてない? 付き合ってる彼女のため?」
女子生徒たちのざわめきが、グラウンドの端に広がっていく。
コメは、保健室に提出するプリントの帰り道、足を止めてその光景を見ていた。
──角谷先生が、応援団長をやる。
学年主任に頼まれたとはいえ、ここまで熱くなって指導している姿を見るのは、実ははじめてだった。
「一本締め、いくぞー!」
「「「よーっ!」」」
ビシッとそろった声が夕暮れに響く。
その瞬間、ふいに角谷がこちらに気づいた。
軽くタオルを持ち上げて、コメに手を振る。
コメも、笑顔で小さく手を振り返した。
だけど──
どこか、その笑顔の奥に、もやのようなざわめきが残っていた。
***
職員室に戻ると、渡部がファイルを閉じる音がした。
「……外、にぎやかですね」
「応援練習。角谷先生、ノッてるよ」
「……ふうん」
その一言のあと、渡部は自席のファイルに目を戻した。
コメは、自分の席に腰を下ろしながら、斜め向かいにいる彼の横顔を見た。
静かに仕事をこなす姿。
でも、どこかピリついた空気を感じるのは、気のせいだろうか。
──渡部先生には、角谷先生のこと、どう見えてるんだろう。
そう思ってしまう自分に、ふっと苦笑する。
彼らは、仕事仲間。
それ以上でも、それ以下でもない。
……たぶん。
***
「センセー!三年の応援合戦、めちゃくちゃ気合い入ってますよ!」
廊下ですれ違った男子生徒が、笑いながらコメに言った。
「そうなの? 頑張ってね。三年生はラストだもんね」
「角谷先生もめっちゃ気合い入ってるし!あんな真面目な先生だったんだなーって、ちょっと見直したかもっす」
そう言って、笑いながら駆けていく。
コメは笑って見送る。
(……角谷先生って、そういうふうに見えるんだ)
誠実で、真面目で、生徒想いで。
でも、その裏で何かを気にしていることを、知っているのは、たぶん自分だけ。
——体育祭まであと少し。
それぞれが、自分の役割をまっとうしながら、
それでもどこかで“誰かの目”を意識している。
そんな日々が、静かに続いていた。



