先生×秘密 〜season2

冬の陽が落ちるのは早い。
校庭の向こうに夕焼けがにじみ始める頃、コメは保護者用の面談室を整えていた。

明日は三者面談ウィーク。
その直前準備として、担任+担当教科のペアで生徒の最終確認を行っている。

「……準備、できてます」

角谷がプリントを机に並べて立ち上がったタイミングで、ノックの音。

「失礼します」

入ってきたのは渡部だった。
黒のジャケットに、薄く開いたノートPCを小脇に抱えて。


どこかぎこちない。
いつもよりも少し距離がある。
でも、それはお互いが意識してつくっている距離だと、ふたりともわかっていた。

***

「三橋くんは……うん、やっぱり迷ってるな」

「本当は、教育学部を受けたい。けど、お父さんが猛反対。『そんな夢みたいなこと』って」

「コメ先生は三橋くんとは話したのかな?」

「話してくれたそうです。熱意を感じたそうですよ」

「でしょう?」

渡部が、ふと笑う。

「“教育学部が夢”って言えるの、今の子たちには珍しい。けど、珍しいからこそ、支えてやらなきゃって、思ってます」

「うん、彼の気持ちを汲んで、
 親御さんと話をしましょう」


***


面談が終わり、書類をまとめていたとき。

「……コメ先生」

「はい?」

「この間、三橋くんと話してくれたんだね。ありがと。君のおかげで
親御さんも、三橋くんの意思を尊重すると言ってくれたよ」

「あ、いえ。たいしたことじゃ」

「いや……」

渡部は少しだけ、言葉を選ぶように黙った。

そして、ゆっくりと言った。

「“今”の君に、教わる生徒は、きっと幸せだと思う」

コメは、返事ができなかった。

心のどこかが、ゆっくりと溶けていくような気がした。

沈黙の中、時計の針の音だけが響いていた。