先生×秘密 〜season2

「職員会議、学年主任だけかと思ったら全体だったんですね〜……」

書類を持ったまま、コメは職員室の扉を開けた。

午後の空気はどこか重たくて、机のあちこちに残るアイスコーヒーのカップが、みんなの疲れを物語っていた。

「あ、コメ先生。3-Bの備品の件で渡部先生に確認お願いしていい?」

「わかりましたー」

にこやかに返事をして、ふと視線を上げる。

……そこにいたのは、角谷だった。

「あれ、角谷先生。こっちの学年も?」

「たまたま手伝いでね。備品の件、渡部先生と確認してたんだ」

その瞬間。

廊下から戻ってきた人影が、コメの視界に入った。

「……」

渡部だった。

書類を片手に歩いてきた彼は、角谷の隣に立つコメを見た。
ほんの一瞬だけ、その目がすっと細まった気がした。

「……お疲れ様です」

先に声をかけたのは、角谷だった。

「いつもコメ先生にはお世話になってます。担当学年違うのにいろいろ助けてもらってて」

口調はあくまで柔らかい。笑ってさえいた。

けれど、その笑顔の下に、何かが見える気がした。

「……いえ。こちらこそ」

渡部もまた、淡々と応じた。
目線がぶつかって、でもどちらも逸らさない。
そのあいだ、コメは真ん中に立ったまま、動けなかった。

「じゃ、備品の件、あとで確認しましょうか」

「はい、渡部先生。準備室に寄りますね」

……そのまま何事もなかったように、二人は背を向けた。

でも。

コメの心には、さっきの視線の温度差が、はっきりと焼きついていた。

「……なんか、疲れた」

プリントを抱えて椅子に座り込みながら、誰にともなくつぶやいた。



渡部の指が、準備室の引き出しを閉じる。
その動きが、いつもより少しだけ乱れていたことに、誰も気づかない。



角谷は、自分のデスクに戻ったあとも、何度か視線を職員室のドアのほうへ向けていた。

それは、コメの笑顔が向けられる先が、自分以外になる可能性を、ほんの少し想像してしまったからかもしれない。



まだ、誰も言葉にはしない。
けれど、火花は確かに、空気の中に散っていた。