「職員会議、学年主任だけかと思ったら全体だったんですね〜……」
書類を持ったまま、コメは職員室の扉を開けた。
午後の空気はどこか重たくて、机のあちこちに残るアイスコーヒーのカップが、みんなの疲れを物語っていた。
「あ、コメ先生。3-Bの備品の件で渡部先生に確認お願いしていい?」
「わかりましたー」
にこやかに返事をして、ふと視線を上げる。
……そこにいたのは、角谷だった。
「あれ、角谷先生。こっちの学年も?」
「たまたま手伝いでね。備品の件、渡部先生と確認してたんだ」
その瞬間。
廊下から戻ってきた人影が、コメの視界に入った。
「……」
渡部だった。
書類を片手に歩いてきた彼は、角谷の隣に立つコメを見た。
ほんの一瞬だけ、その目がすっと細まった気がした。
「……お疲れ様です」
先に声をかけたのは、角谷だった。
「いつもコメ先生にはお世話になってます。担当学年違うのにいろいろ助けてもらってて」
口調はあくまで柔らかい。笑ってさえいた。
けれど、その笑顔の下に、何かが見える気がした。
「……いえ。こちらこそ」
渡部もまた、淡々と応じた。
目線がぶつかって、でもどちらも逸らさない。
そのあいだ、コメは真ん中に立ったまま、動けなかった。
「じゃ、備品の件、あとで確認しましょうか」
「はい、渡部先生。準備室に寄りますね」
……そのまま何事もなかったように、二人は背を向けた。
でも。
コメの心には、さっきの視線の温度差が、はっきりと焼きついていた。
「……なんか、疲れた」
プリントを抱えて椅子に座り込みながら、誰にともなくつぶやいた。
—
渡部の指が、準備室の引き出しを閉じる。
その動きが、いつもより少しだけ乱れていたことに、誰も気づかない。
—
角谷は、自分のデスクに戻ったあとも、何度か視線を職員室のドアのほうへ向けていた。
それは、コメの笑顔が向けられる先が、自分以外になる可能性を、ほんの少し想像してしまったからかもしれない。
—
まだ、誰も言葉にはしない。
けれど、火花は確かに、空気の中に散っていた。
書類を持ったまま、コメは職員室の扉を開けた。
午後の空気はどこか重たくて、机のあちこちに残るアイスコーヒーのカップが、みんなの疲れを物語っていた。
「あ、コメ先生。3-Bの備品の件で渡部先生に確認お願いしていい?」
「わかりましたー」
にこやかに返事をして、ふと視線を上げる。
……そこにいたのは、角谷だった。
「あれ、角谷先生。こっちの学年も?」
「たまたま手伝いでね。備品の件、渡部先生と確認してたんだ」
その瞬間。
廊下から戻ってきた人影が、コメの視界に入った。
「……」
渡部だった。
書類を片手に歩いてきた彼は、角谷の隣に立つコメを見た。
ほんの一瞬だけ、その目がすっと細まった気がした。
「……お疲れ様です」
先に声をかけたのは、角谷だった。
「いつもコメ先生にはお世話になってます。担当学年違うのにいろいろ助けてもらってて」
口調はあくまで柔らかい。笑ってさえいた。
けれど、その笑顔の下に、何かが見える気がした。
「……いえ。こちらこそ」
渡部もまた、淡々と応じた。
目線がぶつかって、でもどちらも逸らさない。
そのあいだ、コメは真ん中に立ったまま、動けなかった。
「じゃ、備品の件、あとで確認しましょうか」
「はい、渡部先生。準備室に寄りますね」
……そのまま何事もなかったように、二人は背を向けた。
でも。
コメの心には、さっきの視線の温度差が、はっきりと焼きついていた。
「……なんか、疲れた」
プリントを抱えて椅子に座り込みながら、誰にともなくつぶやいた。
—
渡部の指が、準備室の引き出しを閉じる。
その動きが、いつもより少しだけ乱れていたことに、誰も気づかない。
—
角谷は、自分のデスクに戻ったあとも、何度か視線を職員室のドアのほうへ向けていた。
それは、コメの笑顔が向けられる先が、自分以外になる可能性を、ほんの少し想像してしまったからかもしれない。
—
まだ、誰も言葉にはしない。
けれど、火花は確かに、空気の中に散っていた。



