夕暮れの駅前。
仕事帰りの人々でにぎわうなか、コメと角谷は肩を並べて歩いていた。
「焼き鳥、ここ美味しいって生物の岸田先生が言ってたとこなんです」
「岸田先生、グルメだもんね」
そう言って笑い合う時間は、穏やかで、優しい。
カウンターに座って、ビールを少し飲んで。
角谷の話し方は変わらずやわらかで、コメのテンポに合わせてくれる。
「これ、半分こします?」
「うん、ありがとう」
ささいなやり取りが自然で、ラクで。
……だからこそ、ふとした瞬間に、言葉にならない“間”が忍び寄る。
***
「来年、ほんとに異動するの?」
串をかじりながら、角谷がぽつりと聞く。
「……うん。校長先生には話した」
「俺のことは?」
コメはグラスの中の氷をじっと見つめる。
「角谷先生とのことはまだ。異動を考えてますと伝えただけで、しっかり話すのはまだだから」
「そっか」
少し笑って、彼はそう言った。
***
帰り道、並んで歩く。
さっきまでの会話の続きをしようとして、コメは言葉を飲み込んだ。
——なんで、こんなに居心地がいいのに、
今日の会話が“どこか物足りなかった”って思ってしまうんだろう。
角谷の手が、そっとコメの手を取った。
優しく、でも少し頼りなげに。
その温度に安心しながら、
心のどこかが、すこしだけ冷たいままだった。
***
部屋に戻り、ポニーテールをほどいて、白衣を椅子にかける。
携帯が光っている。
【渡部先生:今日の帰り、角谷先生と一緒だったな。……安心した】
その言葉を見て、コメは息をのんだ。
「安心した」って、なんだろう。
何から? 誰に? そして私にとっては……?
画面を閉じて、天井を見上げる。
——角谷先生といると、自分は大人でいられる。
——でも、渡部先生の前だと、
どうして、こんなに心が、揺れるんだろう。
仕事帰りの人々でにぎわうなか、コメと角谷は肩を並べて歩いていた。
「焼き鳥、ここ美味しいって生物の岸田先生が言ってたとこなんです」
「岸田先生、グルメだもんね」
そう言って笑い合う時間は、穏やかで、優しい。
カウンターに座って、ビールを少し飲んで。
角谷の話し方は変わらずやわらかで、コメのテンポに合わせてくれる。
「これ、半分こします?」
「うん、ありがとう」
ささいなやり取りが自然で、ラクで。
……だからこそ、ふとした瞬間に、言葉にならない“間”が忍び寄る。
***
「来年、ほんとに異動するの?」
串をかじりながら、角谷がぽつりと聞く。
「……うん。校長先生には話した」
「俺のことは?」
コメはグラスの中の氷をじっと見つめる。
「角谷先生とのことはまだ。異動を考えてますと伝えただけで、しっかり話すのはまだだから」
「そっか」
少し笑って、彼はそう言った。
***
帰り道、並んで歩く。
さっきまでの会話の続きをしようとして、コメは言葉を飲み込んだ。
——なんで、こんなに居心地がいいのに、
今日の会話が“どこか物足りなかった”って思ってしまうんだろう。
角谷の手が、そっとコメの手を取った。
優しく、でも少し頼りなげに。
その温度に安心しながら、
心のどこかが、すこしだけ冷たいままだった。
***
部屋に戻り、ポニーテールをほどいて、白衣を椅子にかける。
携帯が光っている。
【渡部先生:今日の帰り、角谷先生と一緒だったな。……安心した】
その言葉を見て、コメは息をのんだ。
「安心した」って、なんだろう。
何から? 誰に? そして私にとっては……?
画面を閉じて、天井を見上げる。
——角谷先生といると、自分は大人でいられる。
——でも、渡部先生の前だと、
どうして、こんなに心が、揺れるんだろう。



