先生×秘密 〜season2



「やっぱり、コメ先生って生姜焼き定食派だと思った」

「え、なにその偏見」

「偏見じゃなくて直感。あと、俺の予想だと、みそ汁は最初に飲むタイプでしょ」

「ちょっと、それ当たってるのが悔しいんですけど」

職員室近くの定食屋。
夕方、二人だけの遅い食事は、いつの間にか習慣になっていた。

角谷の笑い方はいつもと変わらなくて、でも、どこか最近の彼は、こちらの目をじっと見すぎるようになった気がする。

「……今日さ、昼休みに、廊下から準備室がちょっと見えたんだ」

ふいに、角谷が言った。

「そっか」

コメは箸を置いた。さっきまでのあたたかい笑いが、すっと冷えていく。

「君が、白衣脱がないまま、ひとりでビーカー磨いてて」

「ああ……あれね。ちょっと実験の準備で……」

言い訳めいた自分の声が、少しだけ嫌だった。

「……大丈夫?」

「え?」

「最近、君、遠くを見てる気がするんだよね。俺の隣にいても」

一瞬、時間が止まったような気がした。

「……ごめん、そんなつもりは」

「うん、わかってる。君はそういう人だって、ちゃんとわかってる」

角谷は穏やかに微笑む。
でも、そのやさしさが、少しだけ痛かった。

「コメ先生さ、なんか“無理してないか”って時あるでしょ。俺、そういうの、なるべく気づけるようにしてたつもりなんだ」

「……」

「だからって、なにかを変えたいとかじゃないよ。ただ……本当に苦しい時は、俺にもちゃんと見せてほしいなって」

彼の言葉はまっすぐだった。

でもそれは、まっすぐ「すぎ」なかった。
自分の“ぐらぐら”を、否定しない優しさだった。

「ありがとう。角谷先生は、ほんとうにやさしいよね」

「うん。そう思ってくれてるなら、たぶん俺、まだ戦えてる」

少しだけ笑い合って、定食屋を出た。

外はすっかり暗くて、風がポニーテールを揺らす。

——あたし、どうしたいんだろう。

隣にいる人の手を、つなぐわけでもなく、離すわけでもない。

そんな距離で、今はまだ歩いていた。