──あれは、三月の午後だった。

 卒業式を終えた帰り道、校舎裏のベンチに座っていたあの時間。別れ話をした後なのに、空は嘘みたいに晴れやかだった。

 遥は桜の花びらを指で弾きながら、悠真に言った。

「ねえ、いつかさ。私たちも『レボルとシオン』みたいになれたらいいね」

「……どういう意味?」

「別れても、また出会って。それで、続きが描けるふたりになれたらってこと」

 そのときの悠真は、少し照れくさそうに笑って、「……できるかな」と言っただけだった。

 遥はその記憶を、ずっと忘れていた。

 

 でも、いま──

 あの日と同じ春の空の下、ビル風に舞う桜の花びらが、ふたりの間を通り抜ける。

「なんか……デジャヴみたいだね」

 遥が笑うと、悠真は隣でポケットに手を突っ込みながら首を傾げた。

「なにが?」

「ううん。思い出しただけ。……昔、私、続きが描けたらいいって言ったんだよね」

「続き?」

「うん。『星屑レボルシオン』の……っていうより、たぶん、私たちのこと」

 

 悠真は少し目を見開いてから、にっこりと笑った。

「じゃあ、今ちょうど描いてる最中ってことか」

「……そうかも」

「じゃあさ──この先のページは、遥と一緒に作っていきたい」

 そう言って差し出された手を、遥は少しだけためらって、それからしっかりと握った。

 ふたりの間に流れる空気が、やさしく温かかった。


 ──人生の「続き」は、自分で描ける。
 たとえ遠回りしても、誰かと出会って、変わって、もう一度、恋をすることができる。

 私はもう迷わない。
 だって、もう二度と、「ひとり」じゃないから。