「…でも焼き魚が一番美味しいかもな」
独り言を呟いたけど、隣に居た旦那様に聞こえてしまう声量で、急いで口を押さえたけど、もう遅かった。
視線を感じて、口を押さえたままゆっくりそちらへ向くと、旦那様が私を無表情で見ている。
謝罪が先か弁解が先か。感情が読めなくて、怒っているのかどうかも分からない。
でも私なら、この場でその言葉が聞こえたら、ムッとするかもしれないな。
謝ろう。
指先を膝元で揃えて、頭を下げようとしかけた時、吹き出すような旦那様の笑い声が聞こえた。
「え?」
旦那様を見ると、確かに笑っている。とても楽しそうに。
目を見開くほどに、旦那様の笑い声と朗らかな表情に心を奪われた。
口元を押さえて目尻に皺をつくり、切れ長の目がさらに切れ長になり、目が無くなるくらい細い。
美しい…。
「この後に、焼き魚が出てくるらしいから、そこで思う存分食べれば良い」
「…あっ、はいっ」
私たちを差し置いて雑談していた両親たちも、旦那様の笑い声に、不思議そうに目を向けていた。
何に笑っているのか分からない様子で、首を傾げるとすぐに雑談に戻り、また私たちだけの空間になった。
「あの…」
「ここに出てくるものは、物珍しいものばかりだから、口に合わないものも少なからずある。それを素直に言えることは、素晴らしいことだ」
「…面白、かったですか?」
「あぁ。今まで会った女性の中で、一番愛くるしい方だ。いや、愛らしいと言う方が正しいか…」



