【改訂版】満月の誘惑





お父様が連れてきてくださった、佃 荘司という旦那様に私は尽くすだけ。


髪の毛を固めて、ピシッと整ったオールバック。



袴の襟元も、一ミリの乱れもなく、顔合わせの時の雰囲気は一切ない。




旦那様に下げていた頭を上げると、頷いて私に笑いかけたように見えた。


誰が見ても笑ったと言わないほど、ごくわずかな表情の変化。


本当は笑っていなかったかもしれないけど、私には旦那様の笑顔が見えた。


何だろう、心臓の鼓動がいつもよりうるさく聞こえる。



旦那様を見て、かっこいいとかときめくとか、学校の時に流行った恋愛話を持ち出す感情はない。


ただ、美しい方だと思った。


お酒を口に運ぶまでの所作。ピンと真っ直ぐに伸びた姿勢。


そして私に向けた、気遣いと笑顔。


私はこの人に一生付いていけると、瞬時に思った。



あまり見つめすぎると、不審がられてしまうので程々にして、再び料理に目をやる。



滅多に食べられない、鯛のお刺身を食べてみようと、箸で摘み醤油につけて食べた。


鯛も貴重だし、それをお刺身で食べられるのも、何もかも珍しい。


こんな時にしか食べられないなら、思いっきり食べたい。




「わぁ…、美味しい」




モチっとした食感で、甘みがある。


魚は、焼くか煮付けにして食べることが多いから、素材の味を楽しめて良い。