「ごめんなさい。痛い、ですよね」
「いや、大丈夫だ。…柚葉」
呼ばれた声に顔をあげると、荘司さんは私を欲してくれているのが分かった。
それに応えようとしたけど、荘司さんの顔が近づくにつれて、一昨日の狼の姿を思い出して、顔を避けてしまった。
狼になった時は、荘司さんとしての意識は全くない。
でも人間に戻った時に、狼だった時間の記憶は残るらしい。
私があの森に居たこと、荘司さんにきっとバレている。
お互いに何も言わず、暗黙の了解のようにこれから過ごして行くのは、違うと思った。
「荘司さん。話して、くださいませんか?もう準備はできています」
「そうだな。長い間、隠していて申し訳なかった。心配ばかりかけてしまった…」
「心配は、たくさんしました。でも、荘司さんを信じているので。支えたいんです」
しばらく黙ったままでいると、決心を固めたように一つ頷き、私の肩を柔らかく押して距離を取った。
「代々佃家は狼人間の遺伝を受け継ぎ、私の父親も狼人間だ。母親は嫁いできた身で普通の人間だから、満月が来ると父と私の二人で家を空けていた。森の中で出会って殺してしまったもの、他の狼と過ごしたことは全て忠実に覚えている。とても辛いし、苦しい。死んでしまった方がマシだと思うこともある。だが柚葉を森の中で見た時、一瞬だが人間の意識が体の中に入ってきて、心を支配してきた。この子だけは守らなければと」



