【改訂版】満月の誘惑




朝ごはんを作っていても包丁で手を切りそうになるし、味噌汁をお椀によそうにも手に熱々のままかけてしまうし。


気になって、しょうがない。



朝になって人間の姿に戻れたのか、しんどさは少しでも早く治ったのか。




「畑は、お父さんと二人でするから。柚葉は荘司さんを出迎えてあげなさい」




両親にまで気を遣わせるなんて、これから親孝行で返していきますと言うと、〝荘司くんが安心できる場所を作る方が大事だ〟なんて返事が来た。


両親の方が、荘司さんへの愛が深い気がする。



何か気が紛れることをしようと、囲炉裏の前で途中で止めていた編み物をしていると、玄関の扉が大きな音を立てて開いた。



…帰ってきた!


この間と同じく、肩で呼吸をしている荘司さん。


ちゃんと狼じゃない。ちゃんと人間の姿で、荘司さん自身の瞳で私を捕えてくれている。




「おかえりなさいませ…」


「あぁ。遅くなった」


「いえ。ゆっくり帰ってきていただいて、大丈夫ですよ?」




やっぱり顔の傷が増えている。


仲間の狼とも、喧嘩するものなのか。



「道中、お怪我は大丈夫でしたか?顔の傷、お風呂から上がられたら、薬を塗りますから」


「ありがとう。柚葉…」




私の名前を呼ぶ荘司さん。胸が温かくなった。


荘司さんが目の前にいる。私の名前を呼んでいる。



思わず嬉しくて、傷だらけの荘司さんに抱きついた。


襟元をギュッと掴むと、柔らかく受け止めてくれながらも、痛む傷に顔を歪ませている。