顔には、べっとり泥がついた。でも今は、どうでも良い。
「私に黙っていようと思ったんですか?」
「柚葉が荘司さんを追いかけるのも分かってたし、追いかけた先で知ることも分かってたわ。でもそれで荘司さんを捨てるほど、軽い人間じゃないでしょ?」
「少しびっくりしてショックだったけど…。でも荘司さんは荘司さんだから」
「そう、それだ。それを母さんは信じてたから、言わなかったんだ。柚葉が自身で知って、立ち向かって、どうしていくか。見守ろうってなったんだ。黙ってて、すまなかったな」
苦しみを知っているからこそ、見捨てられなかった。
どんな姿でも、荘司さんは私の旦那様。
私のありのままを受け止めると、包み込んでくださった。
荘司さんは明日、帰ってくる。私の気持ち、ちゃんと伝えられるだろうか。
でも、どういう顔で出迎えたら良いか。
「荘司さんもきっと分かっているよ。だから襲わなかったんだろう」
そう、両親は言うけど。
とにかく、私自身がゆっくり眠って、荘司さんを迎える準備を万全にしておこう。
いつもより一時間早く寝床に着き、朝を待った。
でも、森の中を彷徨う狼の姿をした荘司さんが目に焼き付いていて、目を閉じるのが怖い。
充分な休息が取れたのかも分からず、結局日が昇る前に布団を畳んだ。



