荘司さんの秘密を知ってしまった以上、死は避けられない。
目を瞑って、両親に感謝を言い続けた。
もちろん荘司さんにも。月城家へ来てくれてありがとうと。そして、後をよろしくおねがいしますと。
ざわざわと音を立てて揺れていた木々が一斉に静まり返ると、一匹の狼がその静寂を破るように地面を蹴った。
早く終わって。そう願うのに、蹴った音がツンと耳に響いても意識は遠のかず、何かの荒い鼻息が聞こえる。
怖いはずなのに片目だけを開き、目の前の景色を視界に入れた。
私の目の前には、背を向けた狼が一匹。
「荘司、さん…?」
無意識に名前を呼んでしまう。
すると、背を向けていた狼が振り返り、三度唸るように息を吐きながら、瞬きをして顔が俯くと、涙が流れたように見えた。
くぅん…。
一度だけ、弱々しく鳴き、すぐにその声が遠吠えに変わると、他の狼たちを引き連れるように、先頭を切ってまた背を向けて駆け出した。
私を食べようとしていた狼たちも、リーダーに従うように後を付いていく。
…私、荘司さんに助けられたみたい。
あの数分間に、何が起きたんだろうというくらい、辺りは静かで遠吠えも聞こえない。
私の草を踏む音だけが聞こえてくる。
「荘司さん。どうか、ご無事で帰ってきて…」
人狼とは、満月の夜になると自分の意思に反して、狼に変身してしまう人間のこと。
そして、大事な人であっても、目の前に居るものは襲ってしまうという言い伝えがある。
夜が終わると人間に戻るが、経験したことないほどの倦怠感と全身の痛みを伴い、半日はその場から動けないほどの辛さがあるとも言われている。



