「…あ、やっちゃった。どうしよう…」
森に私一人になって、少し強張りが解けたのか、失禁してしまった。赤ん坊でもないのに。
帰ったら、着流しを洗わないとシミになってしまうし、何より大人になってまで恥ずかしい。
失禁程度で恥ずかしい私と、狼人間のコンプレックスを持つ荘司さん。
比べるに値しないほど、私の出来事は小さいものだ。
荘司さんは、どんな悩みよりも大きく苦しいこの秘密を、いつまで抱え込むつもりだったんでしょうか。
今すぐ人間の姿をした荘司さんに会って、前に私に言ってくれた言葉をそのまま、荘司さんに送りたい。
〝私は荘司さんのありのままを受け止めます〟
この言葉が、荒んだ心をどれだけ温かく包んでくれたか。
空を見上げると、さっき見た時と同じように月は全く欠けのない円をしている。
あぁ、荘司さんの顔が見たい。会いたい。
目尻から一筋の涙が頬を伝い、それを指先で拭って空から顔を下ろすと、目の前には何匹もの狼たちが私を囲っていた。
どの狼も、荘司さんじゃない。私を食べようと、隙を見ているのが分かる。
運の良いことに、私の背後には大きな木が控えており、狼は前と両脇に居るだけ。
でも逃げようとすれば、食べられる。威嚇しても刃向かわれて終わる。どのみち終わりか。



