【改訂版】満月の誘惑





居間に行っても誰もおらず、寝室の襖を開けると荘司さんが居て、まだ呼吸を整えていた。




「お風呂が沸きましたので、どうぞ」


「ありがとう。バタバタさせてしまってすまない」




襖の手前で跪いて開けたままでいると、何のアクションもなく素早い動きで通り過ぎていき、すぐに誰も居なくなると静かで冷たい空気が流れた。





荘司さん______。


私は、荘司さんの妻で良いんでしょうか。妻としての役目、務まっているでしょうか。



不安ばかりが駆け巡り、あまり寄り添いすぎない方が良いのかもしれないと、自分の中で距離を置くことにした。



そう思っていたのに、次の日から何事もなかったように起きてきて、両親ともいつも通り会話をして過ごし、私にも笑顔を向けてくれる。


とにかく戸惑いながらも、いつも通り接していたけど、いつあの重い空気を醸し出すか怖くなる。



そんな不安や恐怖も、跡形もないように忘れ去り、一ヶ月後に荘司さんが夕食の前にと、私の前にかしこまって座った。




「明日の日暮れ、家を空けても構わないだろうか。その次の夕闇には戻る」


「この間の…」


「あぁ。どうしても出なければいけない」




分かりましたと素直に言えない。


何故だろう。一ヶ月前の距離を置かれた寂しさを思い出すと、首が縦に動かない。




「不安に思わせてしまって悪いのは、承知している。ただ、そう簡単にはいかないんだ」


「簡単には…。前の奥様の赤ん坊を世話しているから、とかでしょうか」