次の日の夕方、日が沈む前には出たいという荘司さんの希望で、早めにお風呂を沸かして、夕方の納入は両親に任せた。
両親が納入に行くことはよくあることで、その間一人になることは当たり前。寂しいと思ったことはない。
今日は荘司さんと二人なのに、心の隙間風が強く吹いている。
特に凝った用意もなく、何も持たずに玄関に立った荘司さん。
「お水だけでも持たれては、どうですか?」
「いや。本当に何もいらないんだ」
どこに行くんだろう。何しに行くんだろう。
答えがないと、同じ考えが頭の中をずっとぐるぐるする。
「柚葉、抱きしめても問題ないか」
「え、抱きしめる!?」
考えの読めない表情で言われたものだから、余計に驚いて上擦った声が出てしまった。
「悪い。こんなこと、言うものではないな。私らしくない、すまなかった」
玄関の扉を開けようと、私に背を向けた荘司さん。咄嗟に裸足で玄関に降りて、背中に手を添えた。
「待ってください。まだ、行かないで…」
政略結婚のようなもので、私と荘司さんの間に愛はないと思っていたのに、私の苦しみや弱さを荘司さんが受け入れてくださったことで、私の中で荘司さんへの愛が、心の奥にできてしまった。
もしかしたら、別の家に子どもを産んでくれる好き同士の方が居て、そこへ一日子作りに行くのかも。
そんな予感が頭を瞬間的に過ぎって、胸が苦しくなった。
荘司さんがこちらに向き、目を大きく開けて私を見下ろしている。



