【改訂版】満月の誘惑




恐る恐る頭を預けてみると、抵抗されなかった。このまま優しさに甘えてみようかな。


呼吸に合わせて上下する胸板は安心に包まれて、悲しさや辛さがゆっくりと消えて行くのが分かる。


目を閉じると、穏やかに脈打つ心臓の音が私の耳に溶け込んで、また一つ二つと涙が零れた。



いつも明るく笑っているけど、それはまわりに心配をかけないように、仮面を被っているだけ。


みんなが幸せならそれで良いと、仮面を被り続けてきた。



荘司さんの前では、その仮面は必要ないのかもしれない。




「誰にでも、人に知られたくない過去はある。無理に人に合わせる必要もない。私は柚葉のありのままを受け止めるだけだ」


「はい…。ありがとうございます」




深く温かく心に残った荘司さんのお気遣い。私は、一生忘れることはないでしょう。



人に知られたくない過去はある。お母様にもお父様にも、私が苦しんでいた学生時代のことを、これ以上話すつもりはない。


知られたくない過去であり、あの出来事は恥として心に閉じ込めて鍵をしておきたい。



だから、お膳を下げてお母様とご飯の後片付けをした時も言わなかった。




「荘司さんと、お話しできた?」


「うん。寡黙で難しい人だと思ってたけど、優しくて良い人だった」


「どんな話をしたの?」


「それは秘密です」


「えー…。言ってくれても良いじゃない?」


「荘司さんと二人にした意味がないでしょ」




聞かれてもはぐらかして、荘司さんとの秘密にした。



それから、両親には言えないことでも荘司さんになら言えたし、話を聞いてくれた。


すごく良いお方に、月城家に来てもらえた。