【改訂版】満月の誘惑





「荘司さんも…」


「柚葉、何で泣いている。どうした」


「私、泣いてなんか…」




自分で泣いていることにも気づかず、頬に両手をあてると冷たい水滴が手について、初めて状況を把握した。


慌てて涙を拭こうすると、音を立てずに立ち上がった荘司さんがこちらに近づいてきて、私の斜め前で跪く。


一つも無駄のない動きで着物の袂を手繰り寄せて手に取ると、頬にあった私の手をゆっくりと剥がして、私の涙を拭ってくれた。




「荘司さんの服が汚れますから」


「気にするな。涙は汚くない。悲しいなら、辛いなら泣けば良い」




汚くないと言うが、袂が濡れてしまった。汚れているじゃないですか。


これ以上服を汚さないように手で払うのに、その手を優しく押さえて、強く握りしめてくれる荘司さん。



何故そんなに優しいの。何故そんなに強く居られるの。


荘司さんも、辛い経験をしてきたからこそ、強く居られるのですか?




「すみません。こんな見窄(みすぼ)らしい姿…」



荘司さんは声には出さず、握ってくれている私の手にさらに力を込めて、少しだけその手が荘司さんの方へ引かれた。


これは、胸を貸してくださるということなのか。