「今日は、お味噌汁にねぎを散らそうかな」
冬に育つねぎは甘味が強くて、お味噌汁に刻んで入れると、全体の味が締まって旨みが違う。
せっかくだから、荘司さんに喜んでもらえるように、頑張りたい。
規則正しいリズムで均等の薄さに刻むと、湯気の立つお味噌汁に落とし、軽くかき混ぜてから味見をする。
「…うん、美味しい」
いつもより、美味しいかもしれない。これから家族になる人を受け入れるための儀式。
そういえば、荘司さんは好き嫌いはあるのかな。
体はあまり強そうにはお見受けしなかったし、なるべく栄養のあるものを食べてもらいたい。
昨日は結婚式で作ってもらったご飯だったし、今日の朝はお母様が作ってくれたご飯をみんなで食べたけど、米粒一つ残さず、綺麗に食べられていたし。
「柚葉」
「は、はい!」
「悪い。驚かせてしまったな」
何の物音もなく、突然頭の上から荘司さんの声が聞こえてきて、しかも背後からだったから、余計に驚いてしまった。
一人だと思って、呑気に手を止めていたけど、無防備なところを見られてしまった。
「戻って来られていたのに、気づかずに失礼しました。もうお仕事は終わりましたか?」
「いや、違うんだ。これを」
差し出されたのは、シロツメクサ。柔らかい茎で何輪かのそれが束ねられている。



