【改訂版】満月の誘惑




美しいと言うのか。

ワックスをつけていない髪の毛はサラサラと風に靡いていて、湯上がりのせいか頬を赤く染めて、丹前の胸元は緩く開いている。


まず胸元に目が行き、赤い頬とサラサラの髪の毛に目が行き、〝柚葉?〟と声をかけられて、我に返った。



「ここ、座らないか?」


「では…、失礼します」




妖艶かな。美しいより、妖艶という言葉がよく似合う。

心拍が早まってしまう、荘司さんの無意識な妖艶さ。



荘司さんの左隣の床をポンっと指で叩かれ、そこに正座をする。


お母様はお父様の隣に。




「その丹前、可愛らしいな」


「へっ!?」



褒められ慣れていないし、可愛らしいなんて言われたことない。


柄のことを褒めているのは分かっているのに、その言葉に無駄に反応してしまった。




「…ありがとうございます」


「柚葉によく似合ってる」




橙がかった黄色の丹前。


私の名前にちなんで、お母様が柚の色で縫ってくれた。



「でも…。もう少し胸元は閉じておいた方が良いんじゃないか?」



怪訝な表情をして、こちらに伸びてきた荘司さんの両手は、衿元を指先で摘んで整えられた。




「あ、あの…。自分でやりますから」




そう言っても最後まで整えられてしまい、満足したようだ。


〝ありがとうございます〟と頭を下げると、一つ頷いてお茶を啜った。




何なんだ。この一連の荘司さんの、先の読めない行動は。



私だけが焦っているみたいで、荘司さんの手の上で転がされている。


でも、全ては私を気遣ってくれてのことだと思うと、安心する自分もいる。



私も荘司さんを気遣えて、お互いに寄り添って支え合える関係になりたい。

あの華奢な後ろ姿を、いつまでも追いかけられる、隣に立てる女性になろうと思った。