【改訂版】満月の誘惑





愛らしい。今まで会った女性の中で。


そうだ。お見合いで何度も女性と会ったって言ってたもんね。



その中で私が一番愛らしいと。


これって、褒め言葉…だよね。




「柚葉?…愛らしい、は見当違いな表現だっただろうか?」


「ゆず、は…。あっ、いえ!嬉しいです。旦那様も、凛々しくてかっこいい、お方です」



顔合わせの時は〝柚葉さん〟だったはず。

〝さん〟がなくなると、心臓が飛んでいってしまいそうになるから、突然の呼び捨てはやめてほしい。


呼び捨てで呼ばれて恥ずかしい勢いのまま、旦那様のことも褒めてみると、耳も赤くして目も泳いだ気がして、こちらまでさらに恥ずかしくなった。




「柚葉は、俺のことを名前で呼んでくれないのか」


「え、名前…、ですか」


「旦那様と呼ばれるより、名前で呼んでもらいたい」




旦那様は旦那様。名前で呼ぶことは、ないと思っていた。

佃 荘司。荘司様?荘司さん?


様は、ちょっと堅いよな。




「では…、荘司さん」


「…うん。良い響きだ」




お酒を一口含んで、〝荘司さん。うん、良い。〟とずっと言っている。

余程気に入ったらしい。


気に入ってくださったのなら、良かった。



縁談を断った女性たちは、こんな表情豊かな荘司さんを見ることはなかったと思うと、誇らしい。


私だけが見れる、荘司さんの表情。




「あの、末永く、よろしくお願いします」


「あぁ、こちらこそ。よろしくお願いします」



口を付けていないお猪口を差し出すと、それに荘司さんのお猪口がカツンとぶつかり、お酒が揺れる。


ぐいっと飲み干したのを見届けて、〝もう一杯、いかがですか?〟とお酒を注いだ。