最強パティシエは、幼なじみに恋をする



いつもキリッとしていて、誰にも弱音を見せない彼女が、なぜか今は少しうつむき加減で、落ち着かない様子だった。


「月森さん。少し、いいかしら?」


白鳥さんの声は、いつもの凛とした声とは違い、ほんの少し震えているように聞こえた。


どうしたんだろう?


私の隣にいた七海も、心配そうに白鳥さんを見つめている。


「あのね、マラソン大会のときのことだけど……」


彼女はそう切り出すと、視線を床に落としたまま続けた。


「あなたの力を目の当たりにして、正直、最初はびっくりしたわ。でも、月森さんのことを、少し羨ましいと思った」


私は驚いて、白鳥さんの顔を見上げた。彼女が何を言いたいのか、すぐには分からなかった。


白鳥さんが、私のことを羨ましいなんて。まさか、そんなはずは……。


白鳥さんは、ため息をつくと、ぎゅっと握りしめた両手を私の前に差し出す。その指先は、小刻みに震えていた。


「私ね、この前……ピアノのコンクールで失敗してしまったの。練習では完璧にできていたはずなのに、本番では指が震えて鍵盤を叩き間違えてしまって。頭が真っ白になって……最後まで、演奏を続けられなかった」


白鳥さんの声が、さらに震えた。瞳が潤み、今にも溢れ出しそうになっている。


完璧主義の白鳥さんが、こんなふうに話すなんて意外だった。