湊斗の声に、ハッと我に返る。私は慌てて小さく頷いた。
リビングに案内すると、湊斗は何も言わずにただ、私の近くのソファに腰をおろした。
そして、箱からタルトを取り出し、私の目の前に一切れ差し出す。
「ほら、食べろよ」
私は、ふるふると首を横に振る。
「今は、何も食べたくない」
私の言葉に、湊斗は眉を少し下げる。その表情に、ほんのわずかな影が落ちるのが見えた。
「食べたくないって……せっかく、しずくのために焼いたのに」
湊斗の声が、少し落ちる。
「食べないと、余計に元気出ないぞ?」
「……っ」
『しずくのため』だなんて、そんなことを言われたら……。
湊斗の優しさが、胸にずしんと重く響く。
そして私は、タルトを見つめた。
このタルトにはきっと、私のことを心配する彼の気持ちが、たっぷり詰まっているのだろう。
そう思うと、食べずにはいられなくて。
「……いただきます」
私は恐る恐る、タルトを一口、口に運んだ。



