それは、幼なじみの篠宮湊斗の実家が営む、小さなケーキ屋さんだ。
甘く香ばしい匂いが、ふわりと鼻をくすぐる。
ショーウィンドウに並んだケーキたちは、まるで宝石みたいにキラキラして、いつ見てもうっとりしてしまう。
店の奥をのぞくと、ガラス越しに、白いコックコートを着た湊斗の姿が見えた。
湊斗は私と同じ中学2年生。スラリと背が高く、サラサラの黒髪と、切れ長の涼しげな瞳が特徴的。
見た目はクールで、口数も少ないけれど。彼はサッカー部のレギュラーで、学校の成績も優秀な完璧男子。
そんな湊斗が、サッカー部の練習が休みの日に、こうして実家のケーキ作りのお手伝いをしたり、自分のパティシエとしての夢のために練習に励んだりしている。
真剣な眼差しでクリームを絞ったり、フルーツを飾りつけたりする湊斗の姿は、いつだって私の憧れだった。
私にとって湊斗は、物心ついた頃からいつもそばにいる幼なじみ。だけど、それだけじゃなかった。
彼が作るお菓子は、いつだって私の心をポカポカと温かくしてくれる。
中でも、心に深く残っているのは、幼い頃に湊斗が初めて焼いてくれたマドレーヌの味だ。
まだ幼かった7歳の湊斗が、一生懸命、小さな手で生地を混ぜて型に流し込み、オーブンで焼いてくれたもの。
形はちょっといびつで、裏側が少し焦げちゃっていたけれど。
『おいしい……!』
口に入れると、バターと卵の優しい甘さがじんわりと広がって、胸の奥まで温かくなったことを、今でも覚えている。
あのとき、『お菓子作りで誰かを笑顔にしたい』と、改めて強く思った。
私のパティシエになる夢は、湊斗の背中を追いかけるようにして、ゆっくりと、でも確かに育っていったんだ。



